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「なんで、あんなのをうちに入れて、その代わりにきみを帰らせなきゃならないんだ?」
万里小路氏は、ワケがわからない、という顔をした。今までずっと敬語だった、あたしに対しての言葉遣いも崩れている。
『あら、『あんなの』だなんて、ひどいわ。
……直仁には、わたしの処女を捧げたっていうのに』
——えっ?
麗華さんの「爆弾発言」に、あたしの顔が能面のように固まった。
その瞬間、今まで白かった心の中のモヤモヤが、一気に真っ黒に変わった。
「麗華、ふざけるなっ!いつの話だよ?
おれとおまえが付き合っていたのは、高校生の頃だろっ⁉︎」
「中谷さん」のときも「万里小路さま」のときも、だれに対しても憎たらしいほど冷静沈着だったはずの彼が激昂した。
「ふざけてなんかないわ。
わたしの一生がかかってるの。
もう手段なんか選んでいられないのよ」
麗華さんはしれっと言い放った。
「それに、高校生のときにお互いのハジメテを捧げ合ったのは事実じゃないの。
……とにかく、わたしの事情をちゃんと説明するから、早く部屋に入れてちょうだい」
万里小路氏は、お公家さまの末裔にはあるまじき盛大な舌打ちをしたあと、エレベーターがこの階に停まれるように、渋々スマホで操作をした。
麗華さんの傍らには(もちろん守秘義務はあるだろうが)このレジデンスのコンシェルジュもいるのだ。
これ以上の「暴露」には耐えられないのだろう。
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