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「……わたしと華丸百貨店の御曹司とのお見合いが、とうとう決まったの」
麗華さんは「事情」を話し始めた。
——そうだ、思い出した。
彼女は老舗デパートの松波屋の社長令嬢だった。
「松波屋と華丸が合併することになったことで『政略結婚』の話が持ち上がったんだけど、それまでだってお見合いの話は『仕事が忙しいから』って言って、ことごとく逃げまくってたのよ。
ところが……最近、専属の雑誌が休刊になって、二十代の頃からやってきた雑誌モデルの仕事が、ついになくなっちゃって。
三十代の雑誌モデルってね、結婚して子どもを産んでも綺麗っていう『ママタレ』でないと、なかなか需要がないのよ。
それで、『次』が決まらないでいたら……」
そこで、ふっ、と翳りのある表情になった。
「もともと、うちのコネで入った芸能の世界だし、何年経っても女優の仕事はおろかタレントでもなく、雑誌モデル以外にはスキルのないわたしなんて、身内からはそろそろ引退する『時期』だと思われたみたいでね。
……あれよあれよという間に、外堀を埋められちゃったわ」
「バカだな。好きな男とさっさと結婚していたら、こんなことにはならなかったものを。
おまえ、結婚を考えるヤツいなかったのか?」
万里小路氏が呆れた口調で訊く。
「いたわよ。いたけど……でも、知らない間に二股かけられてて……ある日突然、向こうの方と結婚したって知らされたのよ」
——うっ、それはひどい。そして、ツラすぎる。
でも、こんなに綺麗な人でも、そんな目に遭ってるんだ……
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