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「そもそもは……うちの兄が松波屋を継がずに医者になったからだわ」
麗華さんは、その名どおりの麗しい顔を歪ませて唸った。
「あぁ、恭介さんには奥さんと一緒に今夜の婚約パーティに来てもらったんだ。
もちろん挨拶はしたが、おまえの方からもお礼を言っておいてくれ」
彼女の兄は、SAKURAヒルズ内にある総合病院の総合診療医である松波医師だった。
「なんで、わたしが直仁のために、兄貴なんかにお礼を言わなきゃなんないのよぉーっ!」
万里小路氏の不躾な言動は、麗華さんの怒りの火に油を注ぎまくっていた。
「それにしても、男どもが三人もいるのに、なんで女のわたしが人身御供みたいに差し出されなきゃなんないのよ?」
「部外者のおれが知るわけないだろ?
だが、仕方ないんじゃないのか?
恭介さんだけじゃなく、松波家と並んで創業者一族である佐久間の家だって、次代の担い手が二人とも軒並み逃げて行ったんだから」
なんでも、片方は京都で大学の教員になり、もう片方はデパートとはまったく畑違いの企業に就職してしまったらしい。
「直仁だってさ、あさひJPN銀行に入っちゃったけど、ゆくゆくは『家』を継ぐつもりなの?
まぁ、銀行出身者なら、財務担当の重役として喜んで迎えてくれるでしょうけどね」
彼は現在のところは、まだ社外取締役で「勘弁」してもらっているみたいだが……
「まさか。継ぐ気はさらさらないよ。
今時、同族企業なんて時代錯誤も甚しいと思わないか?」
万里小路氏は言い切った。
「でも、あさひJPNのグループだって同族企業じゃないの。『銀行』はいずれ創業家である朝比奈家の双子兄弟がトップになるんでしょう?」
「まぁ、そうなるだろうけどな。
おれは太陽氏の直属だが、彼にしても海洋氏にしても、創業家とか関係なく『上』に立つ男たちだと思っている。
今はおれも万里小路の威光で部長職に就いているに過ぎないが、いずれは彼らに認められて『実力』で駆け上がってみせるよ」
——こういう話になると、まるで外国語のように意味不明だけど、一つだけ理解ることがある。
やっぱり富裕層は、どこかでがっしりとつながってるんだなぁ……
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