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「そう、それはよかった。賢明な判断だ」
万里小路氏は満足げに肯いたあと、
「じゃあ……これはもう必要ないね」
ローテーブルの端に寄せてあった書類を手に取り、ビリビリビリ…と破いていった。
——えっ、もしかして……それって……
「あ、破いたのは婚前契約書の方で、婚姻届はここにあるからね」
——や、やっぱり……!
進藤弁護士が作成した契約書の方だったか……
「で、でも……どうして……?」
「『どうして』?」
万里小路氏は鸚鵡返ししたあと、
「いい大人の男と女が同じベッドに入って、なにもないわけないでしょう?」
「中谷さん」の口調で言った。
「そういえば……」
今度は万里小路氏の鋭い目で、まっすぐ見据えられる。
「あなたは……確か私のことを、既婚者のオジサンだと思ってらしたんですよね?」
「えっ、いや……その……だって……中谷さんは結婚指輪をしてらしたから……」
「大丈夫。ベッドの中ではあなたにオジサンだと思われないように、ベストを尽くしますよ」
——口調はまるっきり「中谷氏」なのに……
意地悪くダークに微笑んだその顔は……
完全に「万里小路氏」なんですけど。
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