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それは、不意にぽろりと心から溢れた言葉だったけれど……
——あぁ、そうか……
あたしは……中谷さんのことがいつの間にか好きになっていたんだ……
今までさっぱり気づかなかったのに、すとん、と腑に落ちた。
「今から思えば……
彼の左手薬指の指輪を見るともなしに見て、彼が結婚しているということをしっかりと認識することで……」
中谷氏に抱いていた思いが——
「知らず識らずのうちに、自分の気持ちを抑え込んでいたような気がします」
——万里小路氏に向かって溢れ出る。
「だから、『中谷さん』が『万里小路さま』だってわかってからも、あたし……知らず識らずのうちに……あなたの中に『中谷さん』を探していたような気もします」
今夜、麗華さんに突撃されたのはびっくりだったけれど、おかげでまた「中谷さん」に逢えた。
あの穏やかな笑顔が……また見られた。
すると、万里小路氏——直仁さんが、
「『中谷 真人』は『万里小路 直仁』で……
未だかつて、結婚なんかしたことなんかないんだけどね」
そういえば……
一緒に婚約指輪と結婚指輪を選んだとき、奥さまに知られたら気を悪くされるのではないか、みたいなことを聞いたら、「中谷さん」はきっぱりと『大丈夫ですよ』と言い切っていたっけ。
——「奥さま」がいなかったからなんだ……
「皮肉なもんだな。まさか、好きな女を『自分自身』にかっ攫われるとは……」
——えっ?
「……だが、そもそもおれが、きみを騙すようなことをしたのだから、自業自得なのかもな」
万里小路氏は、自分に対して嘲るような笑みを浮かべていた。
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