薄暗い居間で

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薄暗い居間で

 薄暗い居間で、陽向(ひなた)は飲んだくれていた。  一気に飲み込めないほどの酒類を、口からはみ出しながら、体内に注いでいた。  頬や首をつたい、どんどん彼女は濡れていく。  誰がどう見ても、飲みすぎている。  溺れ死んでしまわないか。  僕は心配になる。  腰まで伸ばした金髪をかき乱し、黒いワンピースにシミがついてもお構いなしのようだった。  小顔の色白美人で、どんな洋服も着こなせる器量を持っているが、今は飢えた獣のように酒類をむさぼっている。  日頃は未成年と間違われるような可愛らしい女性だが、今は見る影もない。  時折、空になった缶に口をつけて、奇声をあげた。自分が飲み干した事すら覚えられなかったのだろう。  テーブルを何度も叩いていた。  白い手が赤くなる。唇をかんでうなる。血走った両目は、まるで猛獣だ。  彼女は荒い息をして、呼吸を整えると、再び酒類を飲み込み始める。  チューハイ缶もビール瓶もワインボトルもまたたく間に空いていく。  テーブルにも床にも、まだまだ酒類が大量に転がっている。一度に運べる量ではない。様々な店を掛け持ちして買ったのかもしれない。  小柄で日頃酒に慣れていない彼女が飲み干せるとは思えない。  明らかに身体の限界を超えそうである。  しかし、彼女の周りには止める事ができる者はいなかった。僕が手を伸ばしても、無駄なあがきだった。  いつか倒れると思う。  案の定、陽向はテーブルに突っ伏した。  金髪はだらしなく垂れ下がり、黒いワンピースの裾からイヤらしいほどに太ももが覗く。  目の焦点は合っておらず、頬は紅潮していた。 「ねえ、海斗。あの日の事を覚えているかな?」  僕の名前が呼ばれたが、返事ができない。  何も言えずに彼女を見守っていた。
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