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目が合って、一緒になろうと言われたのは、正直なところ、とても嬉しい。
僕は事故に遭って命を落としてから、寂しい日々を送っていた。
猛烈な痛みに苦しんだ挙げ句に、想像も絶するような寒い世界で、誰にも気づかれずに、孤独な毎日を送っていた。
両親に別れを告げても僕の方を見てくれなかった。
陽向が悲しむ姿を見て慰める事もできなかった。
悔しさと絶望にかられても、何もできなかった。
僕の心は暗闇に閉ざされていた。情けないとしか言いようがなかった。
呼吸の止まった彼女の身体から、同じ体型の白い人型が浮かび上がろうとしている。魂が抜けかかっているのだろう。
引っこ抜けば、簡単にこちらの世界に連れていける。
一緒になれるだろう。
悩み苦しむ彼女のためには、その方がいいのかもしれない。幸せそうな寝顔を浮かべている。猛獣から可愛らしい女性に戻ったようだ。
でも、僕は白い人型を彼女の身体に押し込んだ。
彼女には僕の分まで幸せになってほしいから。君のおかげで僕が幸せだったように、僕は君の幸せを願いたいから。
明け方に彼女は目を開けた。
カーテンの隙間からチラチラと白い光が差し込んでいた。空いた缶や瓶は転がったままだ。
「……一緒じゃない?」
綺麗な雫が床にこぼれ落ちる。
陽向は、とめどなく涙を流していた。
その涙をぬぐう事はできないけど。
僕は傍に寄っていた。身体を重ねたってすり抜けるだけだけど。
彼女はうつむいて、何も言わない。
本当に短い時間なのに、永遠に感じられた。
待つしかなかった。
「温かい……」
彼女はわずかに口の端を上げた。
ゆっくりと起き上がる。
しっかりと僕がいる方向を見ていた。
「海斗はきっといる。私と一緒の場所に」
おぼつかない足取りで棚に近づく。
目元をぬぐって、麦わら帽子をかぶる。シミのついた黒いワンピースとも、よく合っていた。
写真を掲げる。
二人の笑顔が眩しく思えた。
「私は幸せ者ね!」
そう言って微笑んでいた。
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