オンライン・ソックパペット 1-1

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オンライン・ソックパペット 1-1

 Online(オンライン) Sockpuppet(ソックパペット)──。  翻訳すると「ネット工作員」という意味になる。  もともと自作自演の工作のことをそう呼ぶようになったらしい。というのも靴下人形は指にはめる人形なので、そう考えると片方の指同士でやりとりをする、それが自作自演という意味に発展するのもわかる気がする。そして自作自演ときたら工作員だ。  (たつみ)貴志(たかし)はもうずいぶん前から、ネット工作で糊口を(しの)いでいた。取引先は超大手の広告代理店、宣通(せんつう)の子会社から、たまたまネットで炎上してしまった一般の人間まで、依頼があればどんな工作でもこなしている。  今も、あらかじめ準備されたアカウントのリストに沿って、あるJ-POPミュージシャンの新作CDリリースを告げるツイートに、「いいね」を押したり、ときにはリツイート、褒めちぎるリプライなどを書き込んでいた。 「いいね」やリツイートだけでは報酬が安いので、リプライのため、一応サンプルの音源を聴いたのだが、巽にはどこがいいのかさっぱりわからなかった。  それなのに、なぜリプライで褒めることができるかといえば、じつは褒め方も幾通りもの種類があり、マニュアル化されている。テンプレートのような書き方をそのままいくつもの案件で使うと工作がバレてしまうので、そのあたりは筆力が重要だった。筆力の無駄づかいかもしれないが。  実際に、「100日後に死ぬリャマ」や「ハンナと雪の女王2」などのステルス・マーケティング──わかりやすく言えばサクラに賛美させて、よい作品だとというネット世論や空気を作り出す──は失敗例として有名になってしまった。
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