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翔の推論
嶺音は本当こういう時に慎重になるからいけないんだよ。三百円、って静也が言ってたんだから三百円払えばいいだろ。
「ごめん、本当は一人、六百円なんだ」
おかげで倍もお金払うことになったぞ、どうしてくれるんだ。
「もぉ、倍違うじゃんか、最初からそう言ってよ」
嶺生が鞄から財布を取り出す。
「六百円でも安いと思うけどなぁ」
まだ凛音がなにか呟いてるが、それよりも俺は今、真実を見極めることに必死だ。
思うに、金額は最初の「一人三百円」が本当だ。たしかに安すぎる気もするが、北海道フェアの現場にいたのは静也ただ一人であり、俺たちが知るところではない。きっと激安の価格設定で、千二百円でこれほどのものが買えたのだろう。
しかし、嶺生と凛音があまりに問い詰めたために、逆に気を遣った静也は「一人六百円」という倍の金額を口にした。もしくは気を遣ったのではなく「あ、この流れだと本当よりも高い金額言ってもバレないんじゃね」とかいう最低な思考をした結果、嘘の金額を口にした。きっとそうだ。とにかく彼は、嘘をつくことで三人から三百円ずつ余計に貰うという計画に出たのだ。いくら友達と言っても、お金を騙し取るなんて俺は許さねぇぞ。
「おい翔。翔も六百円払いなよ」
そういえば嶺生もこの詐欺に関与した、というかこの詐欺の発端となった人物だ。そんな奴に、はいはいと従う訳がない。
「ごめん、あの俺さ、今日大きい金しか無くて。一万三百円しか財布に入ってないんだよね」
「え、翔くん、一万円札持ってきたの、今日」
「そ、そう。いや、ほんとは六百円しっかり払いたいよ、払いたいけど、なんせ三百円と一万円札しか……」
「むちゃくちゃ頑張ればお釣り返せるけど……」
「いやいやいや、それは面倒じゃんか」
「お前が言うなよ」
咄嗟の一言を見事に嶺生にツッコまれたが、なんせここは嘘に嘘で対抗していくしかない。ここは三百円で済ませたい。
「そっかー……まぁ僕は全然三百円でいいよ、というか元々三百円のつもりだったし……」
静也の言葉に安心した矢先、次は凛音が口を開いた。
「ちょ、ちょごめん! ぼ、僕も一万円しか持ってなくて……」
「はい?」
「だから僕、静也くんに一万円払うよ、うん」
さっきまで広場を存分に照らしていた太陽が、一気に雲の後ろに姿を消した。
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