嶺生の仲介

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嶺生の仲介

いやもう意味が分からない。なぜ二人とも一万円札だけ持って小銭をろくに持っていないのか。静也もどうしていいのか分からず、とりあえず俺が渡した六百円を財布に入れた。 「ちょ、凛音! 凛音が一万払うとか言い出したら、俺も一万払わなきゃならなくなるだろ!」 「いや別に、翔くんは三百円でいいよ。でも、静也が買ってきたこれが一人六百円で済むわけないからさ」 「ちげーよ! お前と嶺生が余計な尋問するから、静也が余計に金貰おうと思って嘘ついたんだろうが!」 「違うよ! なんで静也くんの優しさの嘘に気づいてあげないんだよ、本当は一人千円以上なんだよ!」 「ちょー、待て待て待て待て」 シンプルな喧嘩が始まってしまったので、これは俺が中断させる他なかった。 「喧嘩は違うだろ、せっかく花見に来てんのにさ」 「大丈夫だよ! 喧嘩するほど仲がいいって言うし!」 「それ喧嘩中に言う言葉じゃないだろ! まぁとにかく二人とも、一回冷静になろ」 俺の言葉を聞き、二人はほぼ立ち上がりかけていた体をゆっくりと下ろした。 「もう静也に、本当のこと言ってもらお、それを信じよ、ね」 静也は変わらず、俯き座りながらじっとしている。 「ちょ、静也、静也って」 「……もう、何を言っても、嘘だと思われるから……何も言えない」 もぉこんなんになっちゃったじゃんかぁー。 「……いいよ、六百円払えばいいんだろ」 翔はそう静かに口にすると、百円玉六枚を財布から取り出した。いや、あんじゃん、六百円。 「静也くんが言ったんだからね。静也くんが損してても知らないよ」 凛音も続いて、六百円を静也に手渡した。え、なんなの、二人とも六百円持ってるじゃん。んまぁいいや、とにかく、 「ぃよし! はい、これで、全員しっかりお金払ったってことで! よしケーキ食べよ、ケーキ!」 花見なんだ。楽しむ以外に、何をしろと言うのだ。 「……そ、そのまえに乾杯しようよ、ね!」 凛音が足元の紙コップを手に取った。 「……てか、もう炭酸抜けてんじゃねーのか、このコーラ」 翔がニヤニヤしながら紙コップを眺める。 「静也くん、ほら、乾杯の挨拶、お願い」 「そーだよ、お前が買ってきたコーラだしな」 「……」 静也、もう凹むなって。 「…………っさ、さぁということでお花見ですけどもぉお!」 「せ、静也、いつも通りで頼むわ」 「あ、ご、ごめん」 太陽の光を浴び、一面の芝生はまた鮮やかな緑色を取り戻した。
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