朝山灰 -日常-

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朝山灰 -日常-

 空を見上げる。  梅雨の時期、太陽があたらない場所が比較的過ごしやすい。強いて言えば、この湿気を何とかして欲しいものだ。今日は夕方から荒れると言っていたが、何とか退勤まではもってほしいものだ。  頭上に、大きな鉄の塊が通っていく音がする。かれこれ30分歩いているが、それに乗れば5分ほどで目的地まで運んでくれていたのだろう。  だが、あんな箱の中には2度と入れないという自信を得てから、あまりにも時間が経ちすぎた。今更すぎる。  そろそろ本気で免許を取ることを考えようか。いや、お金と時間が足りなさすぎる。挫折して終わるのが目に見えているだろう。  くそ……こんなことなら高校の時に親父の言うことを素直に聞いておくんだった。時間もある中、金まで出すと言ってくれていたんだぞ、俺? マニュアルでも頑張るべきだった。当時の自分を殴ってやりたい。  少し汗ばんだ状態で、いつもの散歩並みの出勤を終えた。そろそろ着替えが必要な時期か。今は持っていないのでしょうがない、そのまま業務につこう。  俺の仕事は、まあ代り映えのしない事務仕事ばかりだ。面白味もないので割愛する。会議に出るようなバリバリの社員だったら自慢も出来るところなのだが、あいにくそんな敏腕とは程遠い位置にいる。……悲しくなってきた。 「あっ……!」 「!?」  突然、女性社員がぶつかってきた。どうやら荷物が多く、進行方向がよく見えていなかったようだ。  何気ないことだ。しかし、俺の心臓は大きく音を立てて止まない。 「ご、ごめんなさい! あー、資料ばらまいちゃった……。すみません、手伝ってもらっていいですか?」  冷汗がすごい。わかる、穴から熱を冷ましているのが。  声が遠い。ドラムの音に、かき消されているのか。  違う、これは、俺の音だ。 「あの……」  息が、できない。 「え!? あ、ちょ……!」  その場を走り去り、トイレに駆け込んだ。息は荒いが、何とか呼吸は出来ている。ぐしょぐしょになったシャツが張り付いて、気持ち悪い。  こんなことがないように気を付けていたはずなのに、馬鹿か俺は。 前世からやり直せ!  ……ああ、本当に馬鹿だよ、オレは。
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