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「おー古宮(こみや)、久しぶり!」 「遅れてごめん。あれ、なんか太った?」 「おいおい十五年振りの挨拶がそれかよ。太ったんじゃなくて成長な」 「山崎(やまざき)は三十過ぎても成長期なんだね」  うるせー、と山崎が手羽先を齧ると、かつてのクラスメイトが声を上げて笑った。  今日僕が東京から新幹線で三時間半かけて地元に帰ってきたのは中学の同窓会に参加するためだ。  移動時間の都合で少し遅れての合流になったため、僕が店に着くとクラスメイトはほとんど集まっていた。見渡せば昔と変わらない者も、すっかり雰囲気の変わった者もいる。  そして、そこにはやはり彼女の姿はなかった。 「古宮くんは東京で何のお仕事してるの?」 「えっと、一応作家業みたいなことを」 「え、小説家ってこと? すごい!」 「いやいや売れっ子でもないし全然すごくないよ」 「本とか出してるの?」 「……まあ」 「すごいじゃん!」  藤木(ふじき)さんはウーロンハイに口をつける。アルコールが回っているのか、昔から声の通る彼女の声量は一段と増しており、近くに座っていた全員が「古宮先生じゃん! 古宮先生!」と囃し立てた。  しかし誰もそれ以上のことは聞いてこない。とりあえずこの場が盛り上がればいいのだろう。  昔と変わらないな、と思った。  たとえば今この時間が誰かの犠牲の下に成り立っているとしても、誰もそれを見ようとしない。  平和とはそういうものなのかもしれないけれど。  それでも僕は、今この場にいない彼女のことを想う。  自分を失くして世界を救ってくれた彼女のことを。  大人になった僕たちはもう色々な世界を知っている。  だけど中学生の僕たちにとっては、あの小さな教室が世界のすべてだった。
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