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「飯、どこで食べる?」
車を走らせる定が俺に尋ねた。
俺は八洲波先生の話を聞いて別れてから、ずっと口を閉ざしていた。
定も一言も話さずにいたが、ようやく口火を切った。俺には定の質問が頭に入らなかった。
あの貯水槽から救い出してくれた西成の心には同じ深さの暗闇があった。暗闇の中で俺は助けを求めた。その声に西成は応えた。でも、俺には西成の声が届かずにいた。
貯水槽の中で泣く西成の心の声が。
「西成は俺を助けてくれた。でも俺はあいつを助ける事をしなかった」
定が俺の言葉を掻き消すように言った。
「知らなかったから。知る事もできなかったろ。俺らには初めから、あいつを助ける事なんて出来なかったんだよ。司、あまり深く考え込むな」
車窓から眺める空は茜色が終わりに近付いていた。もうすぐ夜が来る。
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