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2時間半の小旅行を終えた萌絵は、下町風情の残る駅前に降り立っていた。見慣れた景色を記憶通りに辿ると、木造の古い食堂が見えてくる。
萌絵は懐かしい安心感に包まれて、『たちばな食堂』と書かれた暖簾をくぐる。
「いらっしゃい……ああ、萌絵か」
食堂の引き戸を開けると、すぐに父の声が耳に届く。相変わらず元気で張りがあった。年季の入ったカウンター席だけの店内は、何人かの客が遅い昼食を食べている。
父の譲二はスポーツマンを思わせる精悍な顔立ちで、色白で丸顔の萌絵は明らかに母親似だった。50歳を超え、生き生きと働く譲二の顔を見て萌絵は帰ってきた実感が湧いた。
東京の土産を渡すと、譲二は物珍し気に眺め、皴の増えた顔を綻ばした。
大学在学中に漫画家デビューを果たし、卒業と同時に上京して家を出た。何の親孝行もしていない。萌絵には多少後ろめたさがあった。
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