43人が本棚に入れています
本棚に追加
就職して三年目、商品のパッケージデザインをしていた僕は、同僚の提案や試作品に不満を持っていた。僕の方がずっといい作品を提案できる、そう思っていたが言葉にはできなかった。月子さんが課に異動してきたのは、そんな時だった。
「高岡課長、よろしくお願いします」
「よろしく」
その女性は髪はストレートで長く、細身で、派手ではないが質の良さそうなスーツを着ていた。
商品開発部との会議があった。
「新商品担当の中里です。今回はアロマディフューザーを企画します。ターゲットは三十歳代から四十歳代の、家事や仕事に疲れた女性です。蓄積した疲れを瓦解するアロマがコンセプトです。よろしくお願いします」
アロマか、市場は飽和状態だろう。新たな価値を付加するにはどうしたらいいのか。
「こちらは既存のディフューザーのデザイン分析です。おひとり一部ずつお取りください」
資料が回ってきた。見たことがあるデザインばかりだ。
「星野君、試作品のラフスケッチ頼むわね」
「わかりました」
僕は資料を手にした課長の手を見た。白く長い指。品のいい指輪を左手の薬指にしていた。
「素敵な指輪ですね」
「あらそう? ありがとう」
彼女は自分の左手を見た。程よい大きさのダイアモンドが銀の台の上で輝いている。
「透明に輝く宝石が好きなの。純真無垢な気がして。自分にないからかもね」
課長は小さく笑った。その手は使い込まれていたが、しっかり手入れをされていて、まるで銀のカトラリーのように美しく見えた。僕の作った指輪をはめてほしい、ふとそのとき思った。
最初のコメントを投稿しよう!