弓張りの月

9/9
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 僕は夢中で走った。ホテルを出て公園にたどり着き、気持ちが悪くてその場で吐いた。吐きながら苦しくて涙が出た。泣きながら叫んだ。 「うおお――――」 僕の声が、公園を取り囲む高層ビルにこだました。もう一度叫んだ。 「うおお――――」 声が枯れ、ひどく咳き込んで呼吸ができない。僕はその場に倒れて老婆のごとく腰を丸めた。ジャケットのポケットからナイフを取り出し刃を開いた。刃は月の光を背にして黒く光った。夜空を見上げると、下弦の月がはるか遠くで輝いている。全身から力が抜け、ナイフが手から滑り落ちた。月に向かって手を伸ばしたが、届くはずもない。僕と月の間には、四十万キロメートルの暗い闇が広がっていた。 *La Fin*
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!