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店を出て、駅に向かって歩き始めた広瀬の背中を見つめる。結局、謝ることも告白もできていない。これじゃあ治ったのに意味がない。離れていく距離を走って埋める。思い切って広瀬の腕を掴んだ。
「うお、何。どうした?」
「どうしても話したいことがあるの。広瀬の時間、もう少しだけちょうだい」
「ん、いいけど」
すぐ近くの公園に寄って、並んでベンチに腰掛ける。言うんだ。そう思えば思うほど、心臓が速く鼓動する。寒くもないのに体が震えてくる。ぎゅっと目を閉じて、深く息を吸い込む。息を吐きながら目をあけると、こちらを覗き込む広瀬と目が合った。
「寒いの?」
「大丈夫。あのね。話したいことっていうのは、ふたつあるんだけど。まず、この前は『嫌い』だなんて言ってしまってごめんなさい。あれは嘘だから」
「別にいいよ。嘘つき病だったわけだし。まあ、あのときは結構へこんだけど。でも、俺も、ごめん」
広瀬があのとき発症していたのかはわからないけれど、気にしていないと頷いた。
「でね、もうひとつはね……わたし、広瀬のことが好き。大好き。言っとくけど、友達としてって意味じゃないから」
広瀬の顔が近づいてきて、唇が合わさった。固まった私の顔を見て、広瀬が笑いだす。
「古川、ごめん。順番間違えた。俺も好きだよ。ずっと、好きだった。俺と付き合ってくれる?」
何度も、何度も頷いた。広瀬も同じ気持ちでいてくれたのが嬉しかった。
「でもさあ、『嫌い』が嘘ってことは『好き』ってことだよねって思ってたんだ、俺」
「どういうこと?」
「だから、あの日、古川は熱烈な告白をしてくれたんだなって後から気づいたの」
言われてみれば、たしかにそうだ。『嫌い』の裏返しは『好き』。とっくにわたしの気持ちはバレていたんだ。
「でも、ちゃんと言いたかったの。好きだよって」
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