コスメティック・シールド

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 蒸し暑い日が続き、この時期は外を避けようとする人たちでネカフェも混み合う。週末なので成瀬も来るかもしれないが、満室の可能性もあるなと思った。  大学では成瀬とメイクの話は全くしない。以前と同様に実験班で会うだけだ。  しかし彼の趣味を知ってからよく見ると、やはりいつも肌はつやつやだし、爪の先も整えられているし、身嗜みに気を遣っていることが分かる。 「雨降りそうだねえ」  ドリンクスタンドを調整していた店長が外を見て呟いたので、私もつられて窓を見た。外はどんより曇っている。 「弘川ちゃん、もう上がりでしょ? 傘は?」 「折りたたみがあります」  すると、本格的に降ってきたのか、客が次々と来店してきた。急激に風が窓を叩き、時折雷の光が差し込み始める。  突然、どこかに雷が落ちた衝撃音がして、私は身を縮ませた。 「うわあ、電車止まってるって」  スマホを確認した店長が唸る。  電車が止まり、悪天候から逃げてきた人でネカフェはあっという間に満室になった。  成瀬はタイミング悪く入ってきた。雨を避けて来たのかずぶ濡れというわけではないが、肩口のところは服の色が変わっている。メイク道具が入っているであろうリュックは前面に抱えていた。 「申し訳ありません、満室になってしまいまして」 「えっ」  受付の私がそう告げると、成瀬はとても困った顔をした。私は少し声を落として助け舟を出す。 「私、もう上がりだからさ、電車が動き出すまでうちに来るといいよ」 「え、でも」 「多分他のネカフェもカラオケも、どこもいっぱいだよ」  少しの間逡巡した後、成瀬は頷いた。 「……じゃあ悪い、雨宿りさせて」  成瀬には受付の脇で待っててもらい、すぐに帰り支度をした私は成瀬を促して店を出た。  外は豪雨。ほんの10分ほどでさらに風は強まり、横殴りの雨だった。  激しい雨音で周りの音がよく聞こえないが、成瀬に「走るよ!」と告げると彼は頷いた。役立たずの折りたたみ傘を差すのは諦め、大雨の中を走った。  バイト先から家まで徒歩5分。多分走って3分もなかったけれど、我が家に着いた時には私も成瀬もずぶ濡れで息が上がっていた。  薄い扉を開けて中に入ると、狭い玄関は二人だけでいっぱいになる。 「ああ、ずぶ濡れだ」  真っ暗な玄関に立ち、濡れた手で手探りで電気のスイッチを探す私に、急に成瀬が叫んだ。 「つ、点けないで!」  
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