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自分殺し
それは妖のわたくしが、人間界で花魁をやっていた頃。
私はこの生活に嫌気がさしていた。
江戸時代の頃、吉原に幕府公認の遊廓が出来たと言うから、わざわざ妖力で小さくなり、勉強がてらに入ってみたのが間違いだった。
禿の時はちっとも男と遊べないし、姉様のご機嫌取り。花魁になれた今でも客の接待でほんと疲れる。
昔みたいに男を落とすのが楽しかったのに、今では身請けしたいと言う大名サマが鬱陶しい。誰が身請けすると?生気吸うわよ?
「夕霧姉様、どうかされましたか?綺麗なお顔が怖いでありんす。」
妖力で黒くした私の髪を整えていた新造が言う。
あら、そんな顔が引きつっていたかしら。笑顔笑顔。
「そういいますれば、昨日のぬしはどうでしたか?」
「そうねぇ…あの客は武左でもう最悪でしたわぁ。次からは断ろうと思うの。」
※武左(ぶざ)=常に威張ってる客
そういう客も居るからほんと嫌ねぇ。
此処ではお客サマに廓言葉も使わなきゃいけないし、自分を殺してると言っても過言じゃないわ。でも慣れてきた自分に少しイラつくの。
この子は産まれた時から遊廓に居て、廓言葉が板に付いてるけど、私は自由に喋りたいの。
さて、お客サマがお見えになったわ。
早く此処から抜け出したいという本音は心の奥底へ仕舞いましょう。
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