0人が本棚に入れています
本棚に追加
妖だから……まあお歯黒どぶはともかく、塀は超えられるわ。
※お歯黒どぶ=吉原の中にある大溝で9mの幅があり、その中は汚水が流れている。
お歯黒どぶはジャンプに失敗すれば汚ったない水の中へ、ドボンよ。それだけは嫌だわ……。
そこで追っ手に見つかってお仕置きされるのはもっと嫌だから、あそこは頑張って超えなくちゃ。
腕力はないけど、脚力には自信があるの。きっと私ならできる。今の私なら絶対できる。
「でもどうやって逃げましょうか…」
優しいお客サマが言う。
「貴方サマは先に大門の外へと出ていてください。私は私で絶対脱走してみせますわ。」
「……貴女さまのことを信用しています。」
心配そうな顔で、説得力が無いわ。
だけれど、気にしている場合じゃない。合流地点を決めなければ。
「一回、私のお客サマがこの周辺の地図を見せてくれたことがあるの。田んぼを抜けたところにお寺があったはずなので、そこへ行ってください。必ずそこへ行きますわ。」
お客サマはこくりと頷いた。
「貴女さまに任せきりで申し訳ないです。ですが……本当におひとりで大丈夫ですか?」
寧ろ一人の方が好都合なの、と私は笑ってみせる。
お客サマは一瞬驚いた顔をした後、微笑んで「なら安心です」と一言、そう呟いた。
お客サマが私を信じて、店を後にした。
直ぐに私もここを出る…という訳にもいかないわ。皆が寝静まった頃、人が少ない時に店を脱出すると決めた私は、一番地味そうな、動きやすい着物へと着替える。
禿達には今日はもうお客サマが居ないから寝るわと一言。
自室に戻り髪の毛を解いて、妖力で黒くしていた髪を本来の色へと戻す。
これで準備はOKよ。
最初のコメントを投稿しよう!