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買い物
9時50分、開店10分前。
「間に合ったぜ!」
二足歩行へ戻して立ち上がると、
「ジン君、こっちこっち」
常連の主婦に呼ばれた。
「どうもどうも、おはようございます!」
開店まで常連の主婦連中に混ざり、世間話をして待つ。
「グフフフ。僕、特売の卵を狙って来たんですよ」
「私もそれが狙い。他の店では1パック80円で買えないわよねえ」
「ですよね!あと、新鮮な生肉。これは絶対譲れません」
「ジン君が言うとこわーい!」
主婦連中は爆笑する。
商店街の住人は当初、オレをかなり警戒している様子だったが今では主婦連中とティータイムするほど仲が良くなっている。
開店すると同時に狼としての本能が働き、誰よりも先に卵を奪い取る。
「ガルルル、卵2パックゲットだぜ!あとは手羽先肉と豚肉、白菜だ」
精肉コーナーへ立ち寄ると、店長が小柄で白髪の老人と話し込んでいた。
「おはようございます」
店長に向かって挨拶をすると、老人はオレを見るなり口をポカンと開けて硬直した。
驚きのあまり死んじまったか?
慌てる店長。
「西川さん!西川さーん!聞こえますかー!」
「あっ、ああ・・・聞こえとるよ」
生き返ったようだ。
店長は笑顔で、オレを老人に紹介する。
「西川さん、この方はうちの常連客です。身なりは狼ですけど、西川さんを襲ったり食べられたりしませんからご安心を」
「ほ、ほうか」
「グフフ・・・」
牙を隠しながら笑いを堪える。
「ジン君、実は西川さんを助けてやってほしいんだ」
突然、店長が訳の分からないことを言い出した。
「えっ?」
「最近、西川さんの畑が荒らされているんだ」
「イノシシとかクマですか?」
「いや、足跡はゴリラっぽいらしいよ」
「ゴリラ?」
「そう、ゴリラ。だけどこんな田舎にゴリラなんているわけないから、役所もイタズラだろうと言って、全く相手にしてくれないらしいんだよ」
田舎は関係ないと思うが・・・
「でも、僕が行ったところで役に立たないのでは?」
「いや、ジン君が遠吠えでもして威嚇すれば、もう寄ってこないんじゃない」
ゴリラに狼の遠吠えが効くのか?
そんなことを考えていると、
「やってみる価値はある。ジンさん、一生の頼みじゃ。遠吠えを一発ぶちかましておくれ」
黙り酷ってた西川さんが拝むように手を合わせて、懇願してきた。
「それはちょっと・・・」
断ろうとした矢先、
「成功報酬は豚1頭でどうじゃ?」
その申し出にヨダレが垂れるのと同時に、断る気を失った。
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