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闘うか否か
週末。
朝から牙と爪の手入れしていると、
「ゴリラと闘うの?」
と妻が不機嫌に言ってきた。
「闘わないよ。ただ、念のために磨いでるだけ」
「ならいいけど。絶対、闘わないでよ」
「心配してくれてるの?」
「当たり前でしょ。怪我されても困るし、新婚早々未亡人になるなんて、絶対に嫌だからね」
「あっ、うん。大丈夫、闘うつもりもないし、君を残して死ぬつもりもないから」
と言いつつ、爪を磨ぐ手に力が入る。
「おっと、時間だ」
妻に見送られながら家を出ると、すでに店長が車に乗って待っていた。
オレが助手席に乗り込むと、
「奥さん怒ってなかった?」
心配そうに訊いてくる。
「大丈夫です。ただ、遠吠えするだけと伝えてありますから」
「そう、それは良かった」
安心した店長は車を走らせ、西川さんの畑へと向かった。
街を抜け山を登って下り、田園地帯へと入る。
「けっこう遠いですね」
「うん。だけど、ここら周辺はもう西川さんの土地なんだ」
「へーーー、西川さんは大地主さんですね」
「そうだね。ジン君はこういう山々に入ると、野生に戻っちゃう感じ?」
「いや、全然」
「・・・そうなんだ」
店長は残念そうに呟いた。
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