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子豚
紺のジャージを着こなす88才のヨボヨボの老人、西川さん。
その西川さんの邸宅は、お殿様が住んでるような大豪邸だった。
「す、凄い豪邸、お城のようだ」
車から降りると、
「ジンさん、いらっしゃーい!」
西川家族親戚一同で迎えられ、即座にカメラ撮影が行われた。
まずは全員での記念撮影を行い、次は個々での撮影会が始まる。
「じゃあ、次は私達家族ね。はい、赤ちゃん抱いて」
「あ、はい」
赤ん坊がキャッキャと笑って、髭を引っ張る。
「はい、チーズ!カシャッ」
世界で唯一の人狼のオレは大人気なようだ。
撮影会が終わると、さっそく問題の畑へと向かった。
「ここですか?」
「そうじゃ」
圧倒されるほどの広大な田園。
「・・・なるほど。で、ゴリラの足跡は?」
「こっちじゃ」
案内された先は破壊された防犯カメラや、無惨にも倒された柵が放置されていた。
「これは酷い」
「じゃろ。これが例の足跡じゃ」
5本指ではあるが大きく人間とは異なった足跡、昨晩に調べたゴリラの足形と酷似している。
すぐ横で店長が足跡を覗き見、カメラで写真を撮りだした。
「ジン君、ジン君。これはビッグフットの可能性あるんじゃない?」
「さあ、どうでしょう。確かにゴリラっぽいですが、知能は高そうだしオレのような存在もいるので、ビッグフットかもしれませんね」
オレの適当な推理がよほど嬉しかったのか、店長は力強くガッツポーズをした。
他の痕跡を探し、嗅覚で臭いを嗅ぎ覚える。
「クンクン。んーー、何かいるのは間違いないな」
奇妙な感覚と臭覚から辺りを見渡していると、
「遠吠え、お願いします」
と西川さんが小声で言った。
遠吠えごときで豚1頭貰えるなら、お安いご用だ。
「では、ゴホン、ン、ン。スーハー、スーハー」
キラキラした目で見つめる2人には申し訳ないが、遠吠えで何とかできると思わない。
とりあえず練習通りにやろう。
「ワオオオオオオオオオ・・・・」
いい感じだ。
案の定、店長も西川さんも嬉しそうだ。
「素晴らしい遠吠えじゃ。あと、あの辺とあの辺と山一帯にも頼む。ああ、そうじゃった。家の辺りもお願いしますじゃ」
「ええ!そんなにやるんですか?」
「豚1頭」
その一言で迷いは消し飛び、
「お任せください、西川様」
言われた通りやろうと決心した。
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