子豚

1/1
前へ
/8ページ
次へ

子豚

紺のジャージを着こなす88才のヨボヨボの老人、西川さん。 その西川さんの邸宅は、お殿様が住んでるような大豪邸だった。 「す、凄い豪邸、お城のようだ」 車から降りると、 「ジンさん、いらっしゃーい!」 西川家族親戚一同で迎えられ、即座にカメラ撮影が行われた。 まずは全員での記念撮影を行い、次は個々での撮影会が始まる。 「じゃあ、次は私達家族ね。はい、赤ちゃん抱いて」 「あ、はい」 赤ん坊がキャッキャと笑って、髭を引っ張る。 「はい、チーズ!カシャッ」 世界で唯一の人狼のオレは大人気なようだ。 撮影会が終わると、さっそく問題の畑へと向かった。 「ここですか?」 「そうじゃ」 圧倒されるほどの広大な田園。 「・・・なるほど。で、ゴリラの足跡は?」 「こっちじゃ」 案内された先は破壊された防犯カメラや、無惨にも倒された柵が放置されていた。 「これは酷い」 「じゃろ。これが例の足跡じゃ」 5本指ではあるが大きく人間とは異なった足跡、昨晩に調べたゴリラの足形と酷似している。 すぐ横で店長が足跡を覗き見、カメラで写真を撮りだした。 「ジン君、ジン君。これはビッグフットの可能性あるんじゃない?」 「さあ、どうでしょう。確かにゴリラっぽいですが、知能は高そうだしオレのような存在もいるので、ビッグフットかもしれませんね」 オレの適当な推理がよほど嬉しかったのか、店長は力強くガッツポーズをした。 他の痕跡を探し、嗅覚で臭いを嗅ぎ覚える。 「クンクン。んーー、何かいるのは間違いないな」 奇妙な感覚と臭覚から辺りを見渡していると、 「遠吠え、お願いします」 と西川さんが小声で言った。 遠吠えごときで豚1頭貰えるなら、お安いご用だ。 「では、ゴホン、ン、ン。スーハー、スーハー」 キラキラした目で見つめる2人には申し訳ないが、遠吠えで何とかできると思わない。 とりあえず練習通りにやろう。 「ワオオオオオオオオオ・・・・」 いい感じだ。 案の定、店長も西川さんも嬉しそうだ。 「素晴らしい遠吠えじゃ。あと、あの辺とあの辺と山一帯にも頼む。ああ、そうじゃった。家の辺りもお願いしますじゃ」 「ええ!そんなにやるんですか?」 「豚1頭」 その一言で迷いは消し飛び、 「お任せください、西川様」 言われた通りやろうと決心した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加