バトル

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夕暮れ。 「ゴルルル・・・」 喉が痛い、やり過ぎたようだ。 「ありがとさん、ではそろそろ帰ろうかのう」 西川さんは満足気な笑みを浮かべた。 逆に店長は残念そうに俯いている。 オレは豚のことで頭がいっぱいで、 「グフフフ」 笑いとヨダレが止まらなくなっていた。 軽トラの荷台に乗ろうとした時、 「ギャー!ギャー!ギャー!」 鳥達の悲鳴のような鳴き声と同時に、 「ガサガサガサササ」 樹木が暴れだし、 「ドーーーーン!」 轟音と共に、黒い物体が畦道に飛び出した。 狼としての眼を疑う。 「嘘だろ」 夕日をバックにしてこちらを睨んでいたのは、明らかにゴリラだった。 「ジャリ・・・」 爪を出し後退りした瞬間、黒い塊が一気に向かってきた。 「バン!バン!」 オレは軽トラのボディを叩き、 「早く車を出すんだ!」 大声で言った。 店長は異変に気づき、 「は、早く逃げないと!西川さん、車を早く出して!」 急かせる。 「あ、あれ、エンジンがかからんぞ」 これでは間に合わない! そう悟ったオレは牙を剥き出し、 「ガルルルルル」 唸り声を上げて立ち向かった。 「ウフォ!」 ゴリラは拳を振り上げて殴る素振りを見せたため、咄嗟に両腕で防御する。 「ゴキッ!」 腕に激痛が走ったと同時に、吹っ飛ばされるオレ。 夕焼けが綺麗だなあ・・・ って浸ってる場合じゃない。 ゴリラは追い撃ちをかけるように、倒れたオレにのし掛かろうとした。 「ドスン!」 「危な!」 四足歩行で急いで逃げて、ゴリラの後方へ回り込み襲う。 「ガブ!」 後頭部に噛みつく、さっきのお返しだ。 「痛い!痛い!痛い!ちょ、血が出てるっしょ!」 人語を話し出すゴリラにオレは噛むのを止めて、 「お前、話せるのか?」 と訊ねた。 「イタタタタタタ・・・話せるけど」 「だったら言えよ。話し合いで解決できただろ」 「だって、君が爪を出したのが見えたし、襲ってきそうだったから」 「オレは襲おうとしてない。それに、先に殴ってきたのはそっちだろ」 「だって、君が怖かったから」 オレ達の言い合いを見ていた店長が、車から降りてくる。 「ジン君、大丈夫?」 オレは笑顔で答える。 「グフッ、大丈夫です。お前、名前あるのか?」 「はい。僕、早乙女薫(サオトメカオル)という者です」 おいおい、名前とのギャップが激し過ぎるぞ! とツッコミを入れたいところを、グッと我慢する。 オレは車内で未だにエンジンをかけようとする西川さんに、危機は去ったと伝えた。
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