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ごく自然に列に並ぶN女史。
私もつられてN女史の後に並ぶ。私はたまらずN女史に尋ねる。
「あの・・・『夕飯前』って、フィナンシャや、或いはカフェとかじゃなかったんですか?」と。
N女史は答える。
安堵感、そして期待感を孕んでいるかのような楽しげな声で。
「ええ、ここのお店の『小ラーメン』は、系列店のものと比べてボリュームが少ないから、夕飯前に頂くのに丁度良いんですよ。」
その声色からは巫山戯た様子は全く感じられない。
至って真面目に、かつ真剣に語っている。
それはまるで、デザインの新しいアイデアを嬉々として話す時のような。
言葉に詰まった私は、スマホを取り出し、そのお店のことを調べてみる。
確かに、他の系列店と比較したらボリュームは少ないようだ。値段もワンコインと極めて良心的だ。しかし・・・。
陰りを見せつつあった私の表情に気付いたのだろうか、N女史はこう話し掛けてきた。
「大丈夫。量が多いと思ったら、麺少なめにも出来るから。」
いや、そういう問題じゃないんですけど・・・。
そう言い掛けた時だった。
お店のシャッターがガラガラと開く。
音を立てて、勢い良く。
そして、出てきた店員さんが、並んでいたお客を店内へと招き入れる。
弾むような足取りで店内へと入るN女史。
一瞬、躊躇する私。
しかし、いつの間にか私の後ろに並んでいたお客さんたちから、無言の圧力を感じる。
その圧を受け、私は押し込まれるようにして店内へと歩み入る。
私の前でN女史が食券を買っている。
N女史はプラスチックの食券を私へと差し出す。
「今日はお疲れ様。ご馳走させてね。」と言いながら。
女の私ですら見惚れそうな、純粋で優しげな微笑みを浮かべながら。
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