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「面会時間は十分間で十四時までです」
看護師はそう言ってICU(集中治療室)から出て行った。
「父さん……」
管に繋がれた父は安らかな顔で眠っている。
一週間前突然父は心筋梗塞で倒れ、意識を失った。
眠ったままの状態が続いていて、いつ目覚めるかは分からないと医者に言われた。
「父さん、俺出版業界の内定貰ったよ……しかも旅行関連の本を出版してる会社の」
父は旅行が大好きで、俺が幼い頃から旅行に連れて行ってくれた。
その影響で俺も一人旅をする様になったのだが……
「この喜びを何でちゃんと伝えられないんだよ……父さん……」
(出来る事なら変わってあげたい……)
そう思った時
【プツッ】
突然小さな音がして、視界が真っ暗になった。
停電か??
だとしたら色んな機械で繋がってる父の命が危ない。
俺は手探りでナースコールのボタンを探した。
「あった!!」
何とかボタンを見つけ出し、それを押した。
そして一分ぐらい経った時に、誰かが部屋に入ってきた。
「どうされましたか??」
どうやら入ってきたのは、先程担当してくれた看護師のようだ。
だがこの言葉に俺はふと色んな事を考えた。
(停電とはいえ真っ暗すぎない??)
(停電なのにナースコール反応したっておかしくない?? あっ、けどそれは予備の電気とかで……)
(んっ?? ってかどうかされましたか?? って反応はおかしくない??)
「あっ、あの停電……」
「はい??」
「あっ、あの……停電……ですよね??」
「えっ、どういう事ですか??」
この看護師の反応に、俺は自分の心臓の鼓動が速くなるのが分かった。
「あっ……視界が……何も見えないんです……」
一年後ーー
結局原因は俺の失明だった。
病名は【オンコセルカ症】
河川で繁殖する雌のブユが人間を刺すことで広がる感染症だ。
過去に海外に行った時に刺されたらしい。
痒みとかは確かにあったが、まさか寄生されていたとは……
「カズト、ご飯出来たぞ」
「分かった父さん……」
父は奇跡的に意識を取り戻し、一時的に退院できる迄に回復した。
こうして俺と父の【光と闇】の立場は逆転したのであったーー
《完》
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