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サービスルーム
その1
この年の春、吉原家は迷った末、築8年の一戸建中古住宅を購入した。
当然、新築が本命ではあったが、ローンの返済負担が軽減できる価格面を優先した結果だった。
ただ、娘一人の3人家族だった30代後半の吉原夫妻にとって、プライバシーと開放感を備えた大型3SLDKの間取りがまさしく理想とマッチしていたことが決定打だった面もあった。
小家族の上、小学4年になる兄弟のいない一人娘の身を思うと、家に友達を呼んで、親の目を気にせず遊べるプライバーシー面を施された”チャイルド・スペース”の必要性を重視していたのだ。
木造2階建てでバリアフリー施工のその家は、2階にLDKと浴室、そして主寝室、1階は和室と子供部屋、さらにはミニサイズの流し台を備えたサービスルームという、かなり斬新な間取り構成だった。
実際、家族3人は今までの古びた2DKのアパートから2回り以上の広さに加え、各々のプライベート空間を確保できる生活を”満喫”していた…。
***
そしてその年の夏…。
夏休みに入り、吉原家には毎日のように一人娘のユウカが友達を呼んで、にぎやかに遊んでいた。
しかし、8月も後半に入ると、夏休みの宿題が重くのしかかり、さすがに母親の恵理子も、口やかましくなってきた。
「…明日、同じ班のミツヒロ君と理科の研究課題を一緒にやるから、家に呼びたいの。カツヤ君とミミちゃんは田舎に出かけてるから二人だけど。サービスルームでやっていい?」
「ええ、いいわよ。あなたたちの班は何の研究をするの?」
「あのね、カブトムシとクワガタを一緒の虫かごにいれて、どっちが強いか観察するの。エサの小さく切ったキュウリを一つ入れて、取り合いさせて」
「そう…。ミツヒロくんは頭がいいから、ユウカもちゃんと教えてもらうのよ」
「はーい」
という訳で、翌日午後、クラスメートのミツヒロ君が吉原家へやってきた…。
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