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レストランの屋外テラスは、吹き通る風が、肌に心地よかった。
二人に会うのは大学卒業後、約一年半ぶりだ。
大学時代から一番スタイルの良いカオリんは美容関係の仕事をしている。
サナっちは私と同じくOL。
各々メニューを決め、それぞれ注文し終えると、私はネイルを気にするカオリんに話し掛けた。
彼女は仕事柄、人一倍化粧が上手い。
「カオリん、相変わらず綺麗だね」
「そう? ありがと」
謙遜しないところは相変わらずだ。
「サナっちも、相変わらず綺麗だよね」
同様に褒めると、
「やだっそんなことないって」
サナっちは首を大きく横に振った。
「否定しなくたっていいよ。サナっちはミスコンに出たくらい、今でも綺麗じゃない」
サナっちは化粧をしなくても十分なほどに、三人の中で一番肌がきめ細やかで、顔立ちも整っている。
だが彼女は益々首を振り、両手まで大袈裟に振りだした。
「やめてやめてっ、違うから、もうおばさんだって」
「そんなことないよ~。それにまだおばさんって年齢じゃないし」
「いやいやいや、そんなに見ないで、汚いから、もう」
「汚いって……」
「汚物だから~」
「いや、そこまで言わなくても……」
サナっちは昔から、褒められると、このように過剰に反応するところがある。
彼女が追い詰められたネズミのようになっているので、私は矛先を変えた。
「カオリんは、いつもどんなスキンケアしてるの?」
「私? う~んそうねえ、週一でエステでしょ。化粧品はディ○ール、あとサプリメントも……」
「サナっちは?」
カオリんの話は長くなるので、さっさとそっちに振る。
「え? 私?」
「なにか特別なこと、してるんでしょ?」
彼女はまた大きく首を振り、
「してないしてない、なんにもしてない」
またまた大袈裟に否定する。
だがサナっちは、美容に人一倍気を使っているカオリんより誰より薄化粧なのに、三人の中で一番目立つのだ。
実際、大学時代にも、男子学生から真っ先に声を掛けられていたのはサナっちだった。
「嘘~。そんなわけないじゃない」
いくらなんでも、なんにもしないわけはない。
「本当だって、もう、洗ったらそれっきりだって」
「そんなわけないじゃん。洗いざらしで放っといて、そんなに綺麗なわけないじゃない」
本当にそうなら、誰も苦労はしない。
「あ、ごめん嘘、そうじゃなかった。洗ってなかった」
「え?」
「ここ何日も洗ってない。だから汚いの。だから見ないで~」
「洗ってないって……」
極端すぎる。
まあとにかく彼女があまりに、「見ないで~」とわめくので、再びカオリんに話題を振る。
「カオリん、彼氏いるの?」
「ああ、最近別れた」
「そうなんだ。でも、モテるんでしょ」
彼女は得意げに、
「そうね、今まで付き合った男の数なんて、両手じゃ足りないわね」
「ふーん」
「私ぐらいになると、もうたいへ」
「ところでサナっちは? モテるんじゃないの?」
カオリんが、「ちょっと、聞いてよ」となにやらほざいている。サナっちはまたまた、
「そんなことないって~」
椅子ごと体を大きくのけ反り、両手を振って否定する。
「でも、付き合ってる人くらいいるでしょ?」
「いないいない。それにモテないモテない。もう寄って来るのは虫くらいよ虫」
「虫って……」
「蛾とか蠅とか、そんなのばっかり」
「そんなわけないでしょ」
「もう汚物だから~。見ないで~。ほっといて~」
「だから、汚物って……」
面白いのでもっと反応をみようと思っていると、横を通り過ぎて行く、数人の男たちの一人が、
「あ、すっげー美人」
とこちらに向かって言った。
その瞬間、カオリんがそちらを向いた。
それは納得出来た。だって自覚してるんだし。
でも私が納得出来ないのは、カオリんよりも誰よりも先にサナっちが、素早くその声に反応し、そちらに振り向いたことだ。
サナっち……。
自覚、してるよね。
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