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僕はいつも行く定食屋に向かった。付き合っているノルが興味を持って、行きたいと言い出したのだ。
あまりお勧めではないと応えたが、言い出すと聞かないのがノルだ。
その店は健康定食と不健康定食しかない。前者は不味く、後者は美味い。
健康定食は1不味から10不味まで、不健康定食は1美味から10美味までそれぞれ10段階ある。美味しいほど身体に悪く、身体に良いほど不味いという店の理屈だ。僕はその考えには同調できないが、この店の美味い不味いのランクは正確だと思う。
ちなみに10不味を食した若い会社員が白目をむいて、口から泡を吹きながら救急車で運ばれるのを見たことがある。だから健康食には疑問符がつく。
ノルに「5美味でいこうよ」と言うと「不健康すぎるわ。1不味を試してみる」
誘導の試みは失敗した。5美味だったらギリギリ僕でもノルにおごれるのだ。不味い定食も数字が大きいほど高くなる仕組みだ。
ノルは1不味をひとくち食べた。
「あら、美味しいじゃない。いかにも健康食だし」
『結論はまだ早い』
僕は1美味にランクを落としたが、わりと美味しかった。
僕とノルは週1回はこの店で食べることにした。
9週間後
ノルは10不味を食べた。
僕は10美味を食べた。
ノルは美味しそうに食べていた。
「ねぇ、一口ずつ交換してみない?」ノルは言った。
「……」とっさに返事ができなかった。
ノルはさっさと一口分を僕の皿に乗せ、僕の皿から一口分をとっていった。
仕方がないのでほんの少しだけ食べた。
ノルはこわごわとほんの少しかじるようにして食べた。
二人は同時にすっくと立つと、トイレに向かった。
幸いトイレが6つもある店だった。
その日以来、僕とノルとは疎遠になった。
どうしてもあの味と匂いと見た目と結果を思い出してしまうからだ。
僕はというと、相変わらず定食屋に行っている。
週に1回3美味を食べる習慣に変わっっていたが。
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