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ご存じかもしれませんが、わたくしの一族は元々呪いを生業とする一族でした。
その昔は大層重宝されたそうです。敵を呪い、弱らせ、時には殺してしまう。
そうしてこの国はどんどんと大きくなっていった。
それと同時に疑い深くなってしまった。
味方であるうちはいい。けれど、もしも敵に回ってしまったら?
猜疑心というものは一度生まれると大きくなるばかりです。
あるいはそれはわたくしたちを邪魔に思う誰かが吹き込んだことかもしれません。
今となってはもうどうでもいいことですが。
やがて一族はあらぬ疑いをかけられ、次々と殺されました。
わずかに生き残ったもの達は身を隠し、貧しく苦しい暮らしを余儀なくされました。
かつては権力の中枢にもいた、その頃の栄光が忘れられない彼らにとってそれはひどく耐え難い生活でした。
ですから国を呪うことにしたのです。そんなに疑うならばいっそ真にしてやれと、そう思ったのかもしれません。
一人を除いた生き残りの命を代償とし、国を滅ぼす呪いをかけました。
残されたわたくしは呪いを内に溜め込む容れ物なのです。
わたくしの中で呪い同士は反応し合い、増幅して膨れあがり、やがては皮を突き破り、呪いを国中へとまき散らす。
それが一族の計画でした。
……けれどわたくしはそれを望みません。
わたくしは一族の境遇は自業自得だと思うのです。
わたくしたちはその力に驕り、傲慢に振る舞いすぎた。その報いだと。
塔の周りはわたくしから漏れ出る呪いのせいで草木も生えず、空はいつも日が陰っている。
けれどわたくしは知っています。
世界の美しさを、空の青さを、草木の鮮やかさを、麦の穂の輝く様を。
わたくしはそれを壊したくはないのです。
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