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讒訴
「それじゃ、後は俺に任しておいて」
「はいよろしくっス」
たまたま駅前で先輩を見かけたら、なにやらガラの悪い男と話が終わったところのようだ。短い金髪の後ろ姿。顔はよく見えなかった。
「誰ですか今の」
「いつもの相談だよ」
僕たちは怖い話を持ってないか露骨に聞いてまわっている。僕は気恥ずかしさから創作物の参考にするとか理由をつけるかぼかしているが。そういうのを長く続けてると噂の流れからかあっちから話を持ってくることもある。ただ、話をするなら女性相手の方がいいのか僕にくることは少ない。いや、これも僕より先輩の方が聞き込みがおおっぴらだからということにしておこう。
「どんな話だったんですか」
先輩は暫く無言で携帯で検索をかけている。この前覗こうとしたら怒られたから背を向けておくか……
「遠いな」
「見せてください」
「ほらここ、電車使えば駅は30分ちょっとで着くけど、そこから長く歩くことになりそうだ」
でも、本心からめんどくさいとは思わない人だ。収穫があるかわからないと僕は躊躇いが生じる距離だってのに。
「つまりまた廃墟ですか、いつか僕たち捕まりますよ」
「その時は彼氏に黙って連れて来られたんですーつってお前を突き出す」
「それは冗談か怪しいんですけど」
「心配すんな、そこそこ辺鄙だ」
じゃあこの後やることあるから、と言い去っていった。
「あ」
まだどんな話か聞いてない……
男が話した怪談話の噂については所在地近くの大学ではそれなりに知られていたらしい、その建物はかなり古い個人の別荘らしく事件が起きた時には廃墟と化してから長かった。
そうなったわけが一切が不明だが不幸にもひとりの女性が殺されるに至った。彼女は実は事切れるまでに時間がかかっていて、その間に別荘にあった筆記用具でノートに詳細を書き残そうとしたが朦朧とする意識の中記したそれは犯人解明に繋がることはなかった。
そして今でもその別荘に行くともう無いはずのノートがそこにあり、複数人で確認すると何ともないが、ひとりの時開くとびっしり走り書きされた文字の最後に自分の名前が……!
「犯人は捕まったバージョンとか殺された理由はこれこれこうだとかもあったけど、だいたいこうかな」
「わざわざ噂の裏取ってたんですね。僕の知り合いは誰も知らなかったのに」
「かなり最近のモノというわけだな」
「よくそんなに聞き出せますね。全然知らない場所だっていうのに」
「この話持って来た男。八百隆二がその大学の人間だったから、そいつの案内で」
あの人ちゃんと大学行ってる人だったんだと失礼な感想が浮かぶ。
「でもそんな人がなんで先輩に?」
「そっちの大学にオカルト研究部があって、そこに遠めの知り合いがいてな」
ふーんとだけ返す。この人の交流関係はよくわからない。
「最近といえばあのチャラ男、チャラくなったのも最近らしいぞ。お前も今からイメチェンしたらどうだ」
こんな髪型と腕でジェスチャーしてるがろくな形してない。遠慮しておきますと突っぱねると先輩も急に笑みを消す。
「なるべく早く行くぞ、八百クンから急かされてるからな」
その言葉には妙な翳りを感じた。今思い返すと僕自身の悪い勘だったのかもしれない。
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