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空言
「あの話は何者かが考えた嘘だった」
「ああ、俺があそこで死ぬことで、虚構が現実を侵食しようとしていた」
先輩が両手の人差し指を交わせる。住宅街を歩いていた。途中にあった公衆電話で「男の叫び声が聞こえる」みたいな嘘の通報してガチャ切りしたが、どうなんだろうか。人の多い場所から離れすぎてるとわかれば嘘だと切り捨てられたりしないだろうか。街中までくるともはや騒がしさに感謝すら覚えるケラも聞こえなくなった。
「見ろ」
先輩が携帯を突き出す。八百かららしいメッセージには「オレだけの新しいシナリオにします」とだけ送られていた。哀れみか悲しみか呆れかどれともとれない表情で、僕の目の前で連絡先を削除した。
「まさかこんなことになるとはな」
「ですね」
「怖いな」
「はい」
今日はやけに疲れさせられた、なんだかんだ霊に対して走るという物理的な対処したのも久々な気がする。あんなことがあった後なのに電車が間に合う時間に帰ってこれてよかったなんて呑気な考えが浮かんでいた。しばらく無言で歩いていたが、店が並ぶ通りまで出てきた時に先輩が口を開いた。
「なぁ」
「なんですか」
先輩が目を瞑って深く悩む素振りを見せる。
「黙ってたことがあるんだけど」
「はぁ」
「本当のここの噂は、虚言癖で実際金はあったが自分は偉大な映画監督だと言いふらしていた老人が自殺か殺されたかした場所で、"やばい"トリガーは2階の部屋に入ること。な、はずなのに全然違う話を聞かせられたから、どういうことかとって……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
それってまさか。
「ああ、最初からおかしいのは知ってたよ、ずっと真実を知らないのはお前だけだったってわけだな」
「道迷わなかったのも、噂を確かめてたのもそれが……!」
「つけられてるか確かめてたのも!な」
あっはっは、と笑いが月と街頭の下に響く、幽霊がつく嘘の幽霊話か、いつかのやりとりを思い出した。打って変わった笑顔で先輩が問う。
「お前は幽霊を信じるか?」
「信じません。あいつらは嘘つきだってわかりましたから。そして、勿論あなたもです!」
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