うそつきカメラ

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 写真は「真」を「写す」と書くんだよね? 僕の趣味は写真を撮ることだった。 サークルで知り合い、付き合い始めた君をこれまでずっと撮ってきた。 休日、外出先、寝る前、ベランダでの洗濯干しなんでも撮ってきた。 そのころは、彼女の朝の日常をカメラに収める事が趣味になってきていた。 朝起きるのが苦手な君 不機嫌そうに目を擦る君 ふたたび布団に飲まれる君 そんな中、スマホの画面が光り、それと同時に彼女も起きた。 僕は、そんな様子も珍しいと彼女の事を写真に収めた。 僕が画面の彼女に夢中になっていると、彼女は 「あっ!また撮ってる!もう!コンプライアンスですっ(笑)」  と、微笑みまじりに僕に注意する。こんな時間も楽しくてカメラにその楽しい時間を記憶させた。僕は、いつでも彼女の全てを写してきたつもりだった。 いつからだろう......。 彼女が、本当の彼女じゃなくなったのは......。  最近の彼女は、スマホの画面に釘付けだ。何かあれば、すぐスマホ。 僕が何気ない瞬間を切り取っても注意してこなくなっている。トイレに向かう時は決まって、スマホを裏返す。僕に何かサプライズでも考えているのかな?そんな事を考えていると、彼女のスマホがなった。  トイレ中の彼女に大声で、スマホの事を伝えるのも何か気が引けて、何がなく、彼女のスマホを見た。知らない名前だった。彼女の交友関係は、狭くある程度把握していたが、僕の知らない名前だった。男の名前だ。少し息が詰まったものの、スマホを裏返した。彼女が帰ってくると、 「ねぇ?スマホ?みた?」 心の中ではビクッとなったものの、平然と僕は嘘をついた。彼女は笑って、またスマホに目を向ける。何かあるとか尋ねると彼女は連絡を待っているのだという。大切な人なんだとか......。         ”いつから僕は彼女にとっての一番じゃなくなったのは” そんな事が心で小さく反響している。すると、また彼女のスマホが光った。彼女は速やかに外に出た。誰からの連絡か?どうせさっきの男だろう......。気になり、ドア越しに会話内容を盗み聞く。 「そうそう!いやホントにっ!そろそろ別れようかなぁって!」 あの時の彼女の声だった。布団から出て、僕を注意する無邪気な声だった。 そこからの展開は書きたくない 今部屋の中にあるものは、カメラと彼女が写ったフィルムだけ......。 本当の彼女はカメラをのぞいてもいない 撮っていたのは、笑う君じゃなくて 僕の知らない君だったのか......。 見るべきものは、写真の君じゃなくて ホンモノの君だったのに......。
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