暗いの…怖い

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28歳の私と25歳の翔吾。 私の職場に入ってきた時から気になる新人くんだった。 仕事の覚えも早く、しっかり自分で考えて動けるし、洞察力もあった。 社内でも優良新人として期待されている。 まあ、今は新人ではないけれど、うちの会社では滅多にない、入社5年未満のリーダー誕生になるだろうと予測されている。 仕事の時はえげつない程のクールさで、社内の無駄を次々と精査し、外交も上手くて取引先からも人気が高いと噂されている。 そんな彼と付き合い始めたきっかけ。 そういえば……停電だった。 たまたま社内のエレベーターに2人きりになり ほぅコレが噂の新人君かぁ… と、普段はあまり関連のない部署同士なので見かけたことしかなかった新人君を後ろから眺めていた。 新人君は何やら書類とにらめっこしながらエレベーターに乗っていた。 すると突然 ガクンっとエレベーターが止まった。 そして キュイーンと変な音がしてエレベーターの中は真っ暗になった。 バサバサっ 何かが落ちる音。 「大丈夫?」 ハプニングに驚いて持っていた書類を落としたんだろうと思い声をかけた。 が、無視された。 暗がりの中、微動だにしない新人君。 「ねぇ、大丈夫?停電だろうと思うけど、すぐに復旧するんじゃない?」 私は再び声をかけた。 が、無視される。 「ねぇ、あなたは私を知らないだろうけど、同じ会社の人が話しかけてるのに無視は酷くない?」 思わずそう詰めてしまった。 それでも無言。 はぁ…最近の子は仕事はできてもコミュ力が低いって聞いたことあるけど、まさにそれなんだね。 まぁいいや。 普段関わらない部署の人だし。 私も話しかけるのをやめた。 「……スミマ…セン」 小さな声が聞こえた。 なんだか声が震えていて、泣いているように聞こえた。 「もしかして…暗いの苦手?」 長身の男の子がまさかね… そう思いながらも声をかけてしまう。 「……暗いの…怖くて…」 その一言にガツンと殺られた。 この子を守りたいとまで思ってしまったのだ。 「そっか…手、繋ぐ?」 自然とそんな言葉が出た。 「え、あ、あの………いいんですか?」 暗闇に慣れてきたので何となくどこにいるか分かる新人君に近づき 「腕に触るよ?」 そう声をかけてから彼の左腕をポンポンと軽く叩き、そのまま手をずらして彼の手のひらをしっかり包み込んだ。 「………あっ」 そのままお互い無言のままで手を繋いでいると 「保安センターです。大丈夫ですかー?」 エレベーター内に声が響く。 多分パネルに緊急時の通話ボタンがあった気がするけど、それがどこだか覚えてないし、真っ暗で見えない。 何も押さずに話しても聞こえるのかなぁ…? 「まもなく復旧しますので、そのままお待ちください」 勝手に話を進めてるから、私達はそのまま無言を貫いてしまった。 最初に声が聞こえた瞬間、彼は身体ごとビクッとして、今は私の手をギュッと握りしめている。 「すぐに復旧するって、よかったね」 「………ハイ」 蚊の鳴くような声ってこれのことかな? 若干手も震えてる可愛い大型犬。 しばらくして チカチカ…パッ! 灯りが戻ってきた。 電気が着いた途端もビクッと身体を震わせてたけど 「……ハァ」 お互いに安堵のため息 そして彼は自分の左手を見つめたあと 慌てて手を離して 「す、すみませんでした」 腰を90度くらいまで曲げての謝罪。 「大丈夫よ。誰にも言わないから」 そう言って足元に散らばってた彼の書類をまとめて 「はい」 と、渡してあげた。 「あ、ありがとうございます」 ちょっと顔を赤らめながら何度も頭を下げる新人君はとても好青年だった。 「あ、あの…もしよろしければ…お礼に食事を奢らせていただけませんか?」 彼に打診されるけど、そんなにお礼される程のことはしていない。 「気にしなくていいのよ」 私の言葉に 「えっと…僕のためにもぜひお願いします。」 僕のため? その言葉に笑ってしまった。 まあ、彼が借りを作ってしまった気になっているのなら、早めに返してもらっておいた方が、彼も安心できるのかな? 「ふふっ…なら美味しいものでも奢ってもらおうかな?」
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