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9章 原罪の家
病室のベッドの上で、水内樹里は携帯電話を片手にため息をついた。
彼が病室を去ったあと、何度かメッセージを送っているのに返事がない。他愛ない内容とはいえ、すぐに返事がもらえないとどうもイライラする。
樹里は携帯電話をベッドの上に置き、病室の窓を眺めた。外はすでに暗くなっており、蛍光灯に照らされた部屋の様子が鏡のように窓ガラスに映っていた。その中には、自分のすがたも。
ガラスに映った自分の顔を見つめていると、さっきまでの苛立ちがすっと消えていくのを感じた。
大丈夫だ。私は美しい。あの女よりも、はるかに。
窓ガラスに映る顔がにたりと笑う。
自分が流産したと知ったとき、樹里は絶望した。でも、かえってこれでよかったのだと今は思う。樹里は彼の子どもを妊娠し、そして流産した。そんなかわいそうな樹里から、彼はもう離れられないだろう。
ピルを飲んでいるから避妊はしなくてもいい。そう彼に嘘をついたのは、焦っていたからだ。交際はもう一年以上にもなるのに、彼はなかなか結婚を切り出してくれなかった。
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