9章 原罪の家

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 でも、子どもさえいれば彼も結婚に踏み切ってくれる。妊娠ほど強力な既成事実はないからだ。子どもの育て方なんか知らないが、そんなのはどうにでもなるだろうと思った。  彼は私にいつプロポーズしてくれるだろう。待ち遠しかった。  樹里は今すぐにでも水内家を出たいのだ。あの女だらけの家を。あの家にいる女たちはみんな男っ気がなくてうんざりする。美園といい透子といい、いい歳になっても結婚できないような女ばかりだ。樹里は絶対に彼女たちのようになりたくない。なってたまるかと思う。  特に嫌なのはゆり絵だ。みにくい顔をさらしながら舞台で成功をおさめたあの姉だ。  樹里は昔からゆり絵の顔が嫌いでたまらなかった。一重まぶたの目も、低い鼻も、薄い唇も、この時代の世間一般の価値観で「美人」とされる顔からかけ離れている。そんなゆり絵にそっくりな自分の顔も嫌いだった。  樹里は暗い性格というわけでもないのに、子どもの頃から人との縁が薄かった。学校ではそれなりにおしゃべりする相手はいたが、特定の友だちがなぜかできなかった。そして思春期になって周りの女子が彼氏を作る頃になっても、樹里にはそういう存在ができなかった。誰かと親しくなっても、なぜかみんなすぐ離れていくのだ。
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