9章 原罪の家

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 それに、仕事も決まらなかった。学生時代の成績はそれなりによかったというのにだ。  原因は自分でよくわかっていた。顔だ。生まれ持った顔立ちがすべて悪いのだ。だから、何度も美容整形手術をして、今のこの顔を手に入れた。「あんなこと」をしてまで。  樹里の周りに人が集まらないのは、すべて生まれ持った顔のせいでなければならかった。樹里と似た顔をしながらも自身の才覚で名声を得たゆり絵はその理屈を否定する存在だった。姉でありながら、ほとんど生理的にといっていいほどゆり絵に嫌悪を感じるのはそのせいだ。けれど、樹里は自分でそのことに気づいていない。  ――樹里ちゃん。  ふと、母の声が聞こえたような気がした。もう十二年も聞いていない母の声が。  ――樹里ちゃん、どうして自分のお姉ちゃんを愛せないの。  十二年前、母の花江は樹里にそう言った。父親の誕生日パーティーの夜のことだ。その朝、樹里はリビングに飾ってあったゆり絵のトロフィーを盗んだ。父は来る客来る客にあのトロフィーを見せ、ゆり絵の成功を自慢するのだと思うと許せなかった。  誰にも気づかれずに盗んだはずだったが、夜になって花江が樹里の部屋に来た。  ――あのトロフィー、樹里ちゃんが持ってるのよね。お姉ちゃんに返そう。ママも一緒に謝ってあげるから。
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