9章 原罪の家

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 電話してみようか。樹里は携帯電話だけ持って病室を出ようとして、慌てて引き返した。チェストの中から、いつも使っているトートバッグを取り出す。高級ブランドの製品で、けっこうな値段がした。樹里の小遣いでもさすがに買えなくて、父が亡くなったときの生命保険料でようやく買えたくらいだ。今はたとえ片時でも、これを手放すことはできない。  トートバッグを胸に抱えるようにして、病室を出たときだった。 「こんばんは」  息を呑んだ。見知らぬ男が二人、そこにいた。その中で一番体格のいい男が、樹里の目の前まで来る。 「水内樹里さんですね」 「ええ……そうですが」  男は川谷と名乗った。旭が殺された件で水内家を捜査している警察官の一人だ。電話で一度話したことがある。樹里の部屋も調べたいといって連絡してきたのだ。 「ああ……あなたが川谷さんですか。どうでした? 凶器は見つかりましたか?」 「いいえ、残念ながら」  内心ほくそ笑みたい気分だった。そうでしょう。見つかるはずなんてないのよ。 「……ですが」川谷は言った。 「遠山君から、『まだ調べていないところがひとつある』と言われましてね。なるほどと思ったんです」 「まだ調べてない場所って?」  川谷は微笑んだ。強面だが、笑うと意外に目元が甘くなる。けっこう好みのタイプかもしれない。
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