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プロローグ 懐妊
その夜のことは今でもよく覚えている。
当主の誕生日祝いだとかで、この家には多くの人が集まっていた。騒がしい場所が嫌いな私は早々に祝いの席を離れ、同じように早々と自室に下がっていた彼女のもとに向かった。
部屋の扉をノックをすると、扉が少しだけ開いて彼女が顔を出す。気分が悪いのか、青白い顔だ。
「水、持ってきたわ」
盆に乗せた水差しとグラスを差し出すと、彼女は不気味そうな顔をした。
「……どうしてわかったの」
「そろそろ欲しい頃じゃないかと思って」
「……」
彼女は部屋の扉を大きく開き、私を招き入れた。ベッドサイドのランプしかついていないせいか、部屋の中は薄暗い。ベッドの上のブランケットにはしわが寄っていた。体がつらくて、ベッドで横になっていたらしい。
彼女は私が持ってきた水をグラスに注ぎ、すぐに口をつけた。水は一気に減っていく。今はどうしても喉が渇くのだろう。
「……助かったわ。キッチンの方には行きたくなかったから」
「そうじゃないかと思った」
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