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目が覚めると、そこは暗闇だった。
確かに、私は目を開けている。決して、まぶたの裏を見ているわけではない。
ここは?天井?ん?空間?どこだろう?
小さい頃、何もかもがキラキラと輝いていた日常はいつの日か光を失い、当たり前の如くそこに存在するようになった、しかし、それと同時に、目の前のみならず、見えていないはずの見えない将来までが輝きを失った。そうすると、輝いているものが見たいというより、輝くものはもうないんだと諦めるようになった。そこからは早かった。
日常は楽しめず、これからの人生に希望が持てず、生きている意味もわからなくなる。そうすると脳裏には、「生きる意味」というより「死ぬ意義」が先行するようになった。気づけば足元には椅子、手元には結んだロープ、見上げれば吊るされた紐が垂れている状態だった。手元の穴に首をかけ、椅子を蹴った。そこから、気づけば暗闇に転生?していた。悪い冗談だが、久しぶりの刺激に少しワクワクしていた。現状キラキラしていないが、この経験はこれまで感じた何よりも刺激的だったような気がする。
奥から、一人の老婆が歩いてきた。よく見ると、私の祖母だった。彼女は私の横に腰掛け、一人話し始めた。
「あんたもきたんか......。ここに。ここはできれば来て欲しくなかったけど、まあ、歴史は繰り返すもんねぇ......。」
彼女は淡々と、彼女がここにいる意味を話し始めた。
それは、どこででも聞くありふれたことだった。
人生はいろいろある事
急いでも良いことはない事いろんな事
死んでも、周りの人が悲しむだけだと
いつでも来れるよこんなところ
と諭してくれた。私は、ただそれを黙って聞いていたが内心では祖母に反抗していた。そんなことはわかっていると。そして、どうしようもなくなったからここにいるのだと。
苦しみを相談しても、ただ頑張れと言われるだけこんなにも頑張っているのに、他人から見るとそれは頑張っていると認識されていない。苦しみを他人と共有しても、共感が返ってくるだけ。少しは気持ちが軽くなるが、何事の解決にもなっていないことに気づくと、また心は重くなる。前に進もうにも、進んだところで意味がないこと。いろいろ考えた結果誰にも迷惑がかからないであろう「自殺」について考えていたこと。
すると、祖母はふふっと笑い。こう呟いた。
「思いつめすぎだよ。あんたは」
聴き慣れた言葉だ。そんなことは言われ慣れている。現に思いつめた結果こうなっている。思いつめることはダメなのは知っている。しかし、思いつめる性格は治そうにも治すことはできない。そんな事を感じ取ったのかまた、彼女は私に問いかけた。
「迷惑をかけないってなんだと思う?」
なんだってなんだよ、生まれた時点で迷惑をかけているんだ。生きる事自体他人に迷惑をかけなきゃ生きていけない。そんなことにいちいち罪を感じては生きていけない。そんなふうに考えろとでも言いたいのであろう。そんなことはわかっている。しかし、わかっていても迷惑をかける自分がどうしても許せないからここにいるんじゃないか。
『生きるとは迷惑をかけること』
それは私にとって、聞き飽きた迷言だった。で?だからなんだ?と考え始めるとまたもや祖母が
「あんたは?人に迷惑かけないように生きてきたのかもしれんが、あんたはわざと他人に迷惑かけて生きてきたか?」
わざと?わざと迷惑をかけるのは、ただの迷惑な人じゃないか?
何を言っているのだろう。そう感じた。そうか?
私が感じた迷惑分、まだ誰かに迷惑をかけた事がないかもしれない
そう、どこかで感じた。そうする先ほどまでのくらい彼女の表情は少し明るくなって、また一言
「もう一回、あんたにはチャンスがあるけど、どうする?」
少し考えた。チャンスったって、そんなこと言われてももう楽しそうなものはもう何もないんだ。そんなものもらっても、どうせ......。と考えていた。考えていたというよりほぼ諦めていた。その時、祖母はそんな私の様子を見かねて、
「焦らんくてもいい、ダメならここにくればええ。あんたの知らんことはいっぱいある。やりたいことは?とりあえず、やってみたら?」
苦笑いしながら、頷いた。気づけばそこは、先ほどの風景だった。少し違うのは、目の前には自分が蹴った椅子、千切れたロープ、あとは、カーテンから漏れる朝日があった事だった。
「帰ってきちゃったか......。」
帰ってきた世界の朝日は、いつかサヨナラを伝えた朝日より眩しいような気がした。私は、”輝いている”と感じる感情が今はどうしようもなく尊かった。
勘違いかもしれない。いや、勘違いでも良い。
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