幽霊さん、初恋です

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 それから一年の月日が経過した。  私は今日も変わらずお化け屋敷でお客さんを脅かしている。 「ばぁあ!!」 「……」  あれ?  反応が返ってこない。ていうか、この感じ前にもあったような……  脅かした先、正面のお客さんを見ると、なんとそのお客さんは一年前の男の子だった。  一年経っているため、少し身長も伸びているが、私を前にしてぽかーんとする表情は面影があった。  男の子の表情は呆然としたものから笑顔に変わった。 「キミ、やさしいおばけさんだよね?」 「え……?」 「また会えて嬉しいな!」 「え、え?」  男の子は私の手を強く握り締める。 「ずっとキミにお礼を言いたかったんだ。あの時はありがとう!」  あの時。  あの時って…… 「非常口から外へ連れ出してあげたこと?」  少年は嬉しそうに頷く。  その屈託のない笑顔に心が締め付けられる。  あんな前のことを覚えていてくれたんだ。 「べ、べつに……」  本当は嬉しくてしょうがないのに、つい照れから裏腹な態度をとってしまう。  そんな私の態度も気にせず男の子はニコニコして「またね」と手を振って去っていった。 「……」  しばらく男の子が走って行った先を見つめてしまう。  そこにはもう誰もいないのに、胸の鼓動は鳴ったままだった。 「あら、もしかして」 「なんかいいかんじ?」  後ろの壁からひょっこりと顔を除かせるのは別の脅かすゾーンにいる筈のお化けさんたち。唐笠お化けが「面白いことになってんなー」と下駄をコンコン鳴らせて飛び回っている。  お化けたちは男の子に対する私の反応を見てニヤニヤしていた。  もう、皆からかわないでよ。
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