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とある遊園地の片隅にあるお化け屋敷にて。
「ばぁあ!!」
「うわぁ、出たー!」
お化け屋敷に入ったお客は驚いて逃げるように慌てて走っていく。
「うひひ、大成功」
驚かせるのに成功した私は得意気に笑った。
「すごく驚いてたね~」
「よくやった」
私の活躍を見て他のお化けたちが集まってくる。
一本足の唐笠お化けがカランカランと片足ジャンプし、ひとつ目小僧は可愛い単眼を細め、白装束の髪の長い幽霊はふよふよと宙を泳ぎ誉めてくれる。
実はこのお化け屋敷で働くお化けたちはみんな本物。
私もそのお化けの一人だ。
そして私はこの中で人を驚かせることが一番得意。
「次のお客さん来たよー」
ふよふよと伝令役の火の玉が私にお客さんが来たことを伝えてくれる。
「おっと仕事に戻らないと」
お化けたちはそそくさと定位置に戻り驚かせる準備を始める。
「よーし、もっと驚かせるぞ」
歩いてくる足音が近づいてきた。
私は死角の陰から飛び出し大きく手をあげ驚かせた。
「ばぁあ!!」
よし、 大成功!
ここでお客さんはビックリして逃げていく。
いつもならそんな筈だったのに、
「……」
「……あれ?」
そこにはぽかんと私を見つめる男の子がいた。お化け屋敷のメンバーの中で一番幼い私よりも更に小さい。
男の子はじーっと私を見つめた後、目に涙を浮かべ大声で泣きながら私から逃げるように走っていった。
しかし、急いで走ったせいで自分の右足が左足に引っ掛かり縺れて転んでしまう。
男の子は先程より更に大きな声で泣き叫んだ。
「痛いよぉ」
「だ、大丈夫?」
思わず心配して声をかけてしまう。
男の子は私を見てぎょっとした表情をしたが、危害を加えようとしているわけではないことを察し泣くのを止める。
「うん……でも」
「でも?」
「怖くて足が動かなくなっちゃった」
「ありゃりゃ……」
しょうがない、最終手段だ。
私は後ろの真っ黒なカーテンを捲る。
捲った先には非常口と書かれたドアがあった。
「ここから出れば外に出られるよ」
「それってズルくない?」
「今回だけ特別ね。みんなには内緒だよ」
私が言うと男の子は鼻水をすすり小さく頷いた。
ドアノブを捻ると白い光が溢れ、外の景色が見えた。
外の世界はメリーゴーランドやコーヒーカップなど華やかなアトラクションに乗って楽しそうにするお客さんの声で溢れている。
お化け屋敷から出た男の子は華やかな喧騒の中とは不釣り合いにとぼとぼと歩いていった。
「大丈夫かな……?」
私は男の子の小さな背を見ながら呟いた。
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