賞金十億円

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賞金十億円

「わしが切腹して、生命保険で支払う」 「自殺で保険金が出るか。ぼけジジイ」  忠信が床の間の模造の刀剣を手に取って、黒いブラとパンツ姿で胡座をかいて切腹をしようとしたが、柴田が苦笑いして罵倒し、子供たちが裏庭に面した戸を全開にすると、配達ドローンが空から滑空して道場に入り、対決寸前の乃武子と朝倉の間に着陸した。 「なんだろ?」 「乃武子先生、何かポチッたの?」 「いや、身に覚えはないが……」  ドローンには『ROMO』の企業ロゴがあり、カメラのレンズが乃武子を顔認識すると、小さな箱を畳の上に置いて、それを乃武子が手にするのを確認してから飛び去って行く。  子供たちが手を振ってドローンを見送り、乃武子の周りに集まったので、拍子抜けした朝倉は構えていたナイフを仕舞い、忠信は切腹をやめ、柴田もその箱に興味を示して一時休戦となった。 「何だろう?私宛ではあるが……」  箱には【剣崎乃武子様へ】と書いてあり、乃武子は首を傾げて箱を慎重に調べ、朝倉が焦ったくなってアドバイスする。 「開けてみろ。ROMOって書いてあるぞ」 「なにそれ?」 「知らないのか?今トレンドのIT企業だ」 「ヤクザのくせに、詳しいのね?」 「今時のヤクザはネットを使った情報戦が主流でね。ネクザと呼ばれ、仮想空間で戦ってんのさ」 「俺と兄貴はリアルな武闘派だがな」 「どちらにしても、自慢にゃならんな」  忠信がそう言って武道着を羽織り、乃武子が箱を開けてお洒落なケースに入ったスマートウォッチを見て驚く。 「何これ?時計?」  八角形(オクタゴン)の画面に『Hello NOBUKO』と文字が映り、美しい波の音と音声で呼び掛けられ全員が唖然とした。
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