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「ダヴィンチ。それで相談なんだけどね。我が家は借金を抱え、恥ずかしながら返済が滞っているのよ」
乃武子は憂鬱な表情でスマートウォッチを手首から外してちゃぶ台の上に置き、善三の横に並んで一緒に正座してダヴィンチに頭を下げた。
「是非とも、賞金の前借りをお願いします」
「乃武子なら、間違いなく優勝できる。倍にして返すので、何卒よろしくお頼み申す」
『乃武子さまも、善三さまも頭を上げてください。先程も言いましたが、全てダヴィンチにお任せください』
「もしかして、借金の事も知ってた?」
「やるねー、ダヴィンチ殿。見た目は時計だが、神のように知り尽くしている」
『はい。お二人がコント好きなのも承知しています』
乃武子と善三は借金取りに追われる心配がなくなったとハイタッチして喜んだが、ダヴィンチは賞金の前借りができるとは確約してない。
『ROMO社のCEO、壇洋文を紹介しますので直接交渉してください。それと乃武子さまには高額のアルバイトを探してあります』
「そ、そういう事か?」
乃武子は世の中そんなに甘くないと頷き、格闘技でトップ選手になるのと同じく自己プロデュース力が必須であり、至難の課題をクリアし、高い壁を越えなければ高額な賞金を勝ち取れる筈がない。
「おじいちゃん。これは普通の試合じゃないんだよ。強さと愛が試される、結婚ウォーズなんだ」
「ふむ、それより高額なバイトってのが気になるが……」
乃武子が気合を入れてスマートウォッチを付け直し、夕食の後片付けを始めたが善三は嫌らしいバイトを想像して不安になった。
「孫娘が風俗嬢に……」
しかしその夜に乃武子はバックパックに荷造りをし、翌日の朝には横浜から東京へ旅立った。距離は近いが、最低でも借金を返済しなければ帰らない覚悟で電車に乗ったのである。
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