九人の女戦士

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九人の女戦士

 招待を受けた九人の女性は全員参加を表明し、壇洋文は住まいと美術商を兼ねる吉祥寺の古びたビルでウィリアムから連絡を受け、テラスでコーヒーを飲みながら話す。 『時間差はありますが、九人の戦士がスマートウォッチを受け取り、参加規約にサインをしてこちらへ向かっています』  ウィリアムの声は左腕のスマートウォッチから聴こえ、テーブルに置いたタブレットに数十秒間、女性達の旅立ちのシーンが順番に映し出された。  室内で荷造りをしている西川愛菜。玄関を出て車に乗り込む北条栗子。自室で外出着を選ぶ伊達正美。駅のホームを歩き新幹線に乗る藤原篤子。ダイニングルームで家族と最後の食事をする石田光恵。飛行場へタクシーで向かう柴田和子。大きな鞄を持って田圃の真ん中の通りを歩く上杉静香。ガレージからバイクに乗って走り出す武田弓子。 「予定通り、物語が始まったか?」 『はい。九人の女性に贈ったスマートウォッチは画家の名前で振り分けられ、勝利へ導く働きをする筈です。AIが感情と個性を有し、人間の良きアドバイザーだと証明されるでしょう』  ウィリアムはAIがそれ以上の存在だと確信しているが、主人の壇には謙虚に提言して、最後に乃武子の映像を映し出す。 「この女性、プロフィールは派手だったのにプライベートは地味ですね。それとも、何かあったか?」  乃武子は急行電車の窓側の席に座り、バックパックを横に置いて車窓の景色を眺め、壇がギャップを感じたように薄汚れた身なりをしている。 『これもコントの衣装でしょうか?』 「演出って言ってくれない?」  ボロボロのジージャンにパンツはツギハギだらけ、髪はボサボサで破れた帽子に靴は穴が空いて指がはみ出し、乃武子は浮浪者のファッションで同情を誘い、壇に賞金の前借りを頼むつもりだった。
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