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『ダン』
左腕のスマートウォッチからウィリアムの声が聴こえ、壇は通路を歩きながら耳を傾けた。
「どうした?」
『一つ確認させて欲しいの』
「なんなりと」
ROMO社のスマートウォッチの売れ行きは順調であるが、壇が装着する新製品はスペシャル・モデルでOSはスーパーコンピューターの中枢に鎮座するAI・ウィリアムにネットワークで常時繋がっている。
(エントリーモデルはスマートフォンと連携しメール着信や通話、SNSアプリのメッセージ通知、音楽にエクササイズの健康管理、GPS、完全防水は基本機能。)
『マスコミに知られたら、大騒ぎになりませんか?なにしろ、賞金で結婚候補を競わせるなんて前代未聞ですわ』
「批判されても構わないさ」
『そうね。恋は戦いであり、世間と戦う精神力も必要です』
ダンは『ROMO』のスーパーコンピューターは人間を導く預言者になると宣言し、ウィリアムはそれを証明する機会だと理解した。
『この恋物語のタイトルを決めましたわ』
「教えてくれ」
『結婚ウォーズ』
「キャッチーなタイトルではあるね」
『この星を守る。そんな子孫が誕生することを祈ってください』
「うーむ。財閥のか弱い男の子を結婚させ、孫が生まれる事を期待するだけなんだが」
壇は苦笑いしてウィリアムとの会話を終え、通路からエレベーターに乗り込み、手すりに寄りかかって左の人差し指を鼻の前に立て、数時間前にこの案件を依頼されたシーンを思い起こす。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
『ストリートで似顔絵書きをしていた少年時代、彼に見出されなければ今のダンは間違いなく存在しなかっただろう』
ウィリアムの創り出す恋物語はそんな書き出しでスタートした。
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