第二章・勝利の条件

2/3
前へ
/25ページ
次へ
 神奈川横浜市緑区長津田の住宅街の一画に『心形刀流』の道場があり、剣崎乃武子は赤と青のド派手な武道着を着て、赤月組の若頭、朝倉光哉と畳みに正座して対峙している。  乃武子の祖父忠信はすぐ近くで腰に手を当てて立ち上がり、朝倉の部下・柴田敦夫と顔を付き合わせて睨み合い、今にも殴り合いになりそうだ。 「テメー、ぶっ殺すぞー」 「ふん、やってみろ。若造」  忠信は痩せた白髪の老人であるが、武道の達人であり孫の乃武子に教えた師匠でもある。それを横目に乃武子は冷静な表情でサングラスをして胡座をかく朝倉に交渉した。 「朝倉。もう少し待ってくれないか?」 「もう、諦めろ。いくら溜まってると思う」  朝倉と柴田は乃武子の父親がギャンブルで借金した月の支払い金が滞り、取り立てに来たのである。 「毎月二十五万、四ヶ月滞納して百万だ」 「利子が高過ぎる。それにあいつは勘当した身だ。我らが借りた金ではないぞ」 「ケツまくって逃げたんだよ。ジジイが」  柴田が怒ってパンチを出すが、忠信は寸前で見切って頭を下げてひょいっと避ける。老いて力は衰えたものの動きは素早い。 「対決して、私が勝ったら一週間待ってくれ」 「嫌だね。総額一千万。この道場と家を売って金を作るしかないだろう?」  乃武子が頭を下げて頼んだが、朝倉はそんな条件など簡単に断った。赤月組は剣崎家の土地を手に入れたくて、ギャンブル好きの秀雄に金を貸しまくったのである。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加