3章 暴力団組員となる

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一年ほどが経った頃です。私は完璧に刑務官を舐めていました。 ある夏の暑い日の夕方,私は独居房(1人部屋)で職員とつまらぬ事で言い合いになりました。 「おい,口の聞き方に気を付けろ」 これは刑務官の言葉ではありません。 些細な事でしたが,生意気な若い職員に対して受刑者の私がこう言いはなったのです。 一体どちらが職員なのか,どちらが口の聞き方に気をつけるのか,生意気なのはどっちか,と思われるかもしれませんが,当時の私はそんな事もわからない位調子に乗っていたのでしょう…。 若い職員は,まだ幼さの残る顔を真っ赤にして, 「調査〜!」と言いました。 ここで言う“調査”とは規律違反や反則を犯した受刑者に対して,懲罰処分にするため,一定期間,工場に仕事も出させず,昼夜間を独房で過ごさせて懲罰の処分を下すまでの期間,いわば刑務所の中での裁判にかけるぞ,という判断の処遇です。 私は夏の暑さでイライラもしていたのでしょう。職員の“調査”の一言に激昂してしまい、 「やかましぃ〜やれるもんならやってみぃ〜」 と部屋越しに,その職員の胸ぐらを掴み,自分の部屋に引き込み,檻の柵に押し当てました。 職員はまさか,手を出されるとは思っても見なかったのでしょう。さっきまでの態度を一転させて,真っ赤な顔で苦しそうに, 「待て,ちょっ,ちょっと待って」 などと言いながら私を宥めようと必死でしたが カッとなっている私には,もはやその声は届きません。 「もう一回言って見ぃや〜」 とそのまま掴んだ胸ぐらを締め上げていると, 他の職員が走って止めに来ました。 「おい,やめろ,はなせ!」 などと言いながら私の手を無理矢理引き離すと,すぐに非常ベルを鳴らされ,私はすぐに保護房へと連れて行かれました。 結局この件は,懲罰処分40日に加えて, “公務執行妨害”という罪名で,事件送致と言う 普通の裁判にかけられてしまいました。判決は “懲役8ヶ月” 私は刑務所の中でも更に刑期を伸ばすという,もう,どうしようもない人間になっていました。
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