21人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
面談室に戻った夢見手に、高野からいきなり不躾な言葉が飛んできた。
「意外としっかりしているんですね」
夢見手は無口だと思っていた高野が喋ったことに驚いたが、それ以上に高野の言葉の真意に戸惑った。
「いえ、広告を見てね、正直怪しいと思っていたんです。一年以内の成婚率八〇パーセントを謳っているところなんてどう考えてもおかしいでしょう」
「結婚相談所によっては、『成婚』の定義が結婚や婚約じゃないところもあるようですね。例えば、同棲を始めたり、半年以上交際が続いていたりした場合も成婚に含めるのだとか。酷いところになるとたった一泊しただけ、婚前交渉をしただけでも成婚としたり——とんだ嘘つきですよ」
「うちはそんなことはしていません! みなさん、きちんと結婚や婚約をされています!」
夢見手は声を荒げないよう抑えるのに必死だった。
「マリエスは登録会員数を最小限にしています。それは、私たち結婚カウンセラーがお客様お一人お一人をしっかり見て、その方に合った最善のサービスを提供するため——成婚率八〇パーセントはその結果です」
「なるほど、そういうカラクリですか。成婚率というのは『成婚した人÷全会員数』でしょう? 母数の全会員数が少なければ、成婚率は上がりやすい」
「——まあいいでしょう。私も実のところ一年以内に結婚をしたいわけです。マッチングが決まったら教えてください」
「ありがとうございました。またご連絡いたします。気を付けてお帰りください」
夢見手は形式的な言葉とお辞儀で高野を見送ると、事務室へと駆け戻った。
最初のコメントを投稿しよう!