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「所長~! 高野さん、さいっあくの最悪ですよ。前言撤回! 私、絶対あの人とは結婚しません!」
「夢見手さん、だからお客様との恋愛はご法度——」
「そういうことを言ってるんじゃないんですよ! もう!」
「冗談よ。あなたたちのやりとりは見ていたわ。ほらこれでも飲んで、少し頭を冷やして」
姫崎は夢見手に冷たい缶コーヒーを差し出した。
「あ、これ私の好きな銘柄!? この辺の自販機には置いてないのに〜! 私のこといつも見ててくれてたんですね……姫崎所長、大好きです~」
「まあ、調子のいいこと。ふふふ」
夢見手はすっかり機嫌を直した。
「あんなに疑ってかかるくらいなら結婚相談所なんてはじめから利用しなきゃいいのに……」
夢見手はポロッとそうこぼしてから、所長の前で言うべき言葉ではなかったと後悔した。
「でも彼はここを選んだ。なぜだと思う?」
「ええっ……うーん、何ででしょうか」
姫崎は性格適性診断の結果を夢見手に手渡した。
「純粋で臆病——」夢見手が読み上げる。
「純粋だから——本心では成婚率八〇パーセントを信じたいと思っている。彼は本気で結婚したいのよ。だからここに来た」
「えー……そうでしょうか。信じているようには見えませんでしたけど」
「臆病だからよ。信じたくても疑わずにはいられないの。信じて裏切られるのが怖いのよ。きっと彼は、今までずっとそうして生きてきたんでしょう……」
「診断結果だけでそこまで読み取れますか? 所長はちょっと深読みしすぎなんじゃ?」
「そうかもしれないわね。ふふふ」
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