竹に絡みつく蔦

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 小さな池の写真が写ったハガキが届いた。時期でいえば暑中見舞いという事になるのだろうか。しかし夏らしい絵も写真もない、見覚えのある田舎風景の写真だけ。それでも何を言っているのかはすぐにわかった。  自室の引き出しから取り出したのは新聞の切り抜きだ。8年前からとある地域の新聞に毎年載っているある共通の事件の記事だった。 『今年も一人が死亡 祟りだと怯える住民』  毎年誰が死んだのか、どういう風に死んでいたのかが事細かに書かれている。それをわずかに目を細めて見つめ、再び引き出しに戻した。毎年新聞記事を送られてきていたのだ。今年も来ると思っていた。そして今年来たら実行しようと思っていた。鞄に着替えと必要最低限の荷物を詰めて家を出る。 これから新幹線で3時間ほど、目的地に着くまではかなり時間がある。 耳に残るほどのセミの鳴き声を聞きながら駅に向かいつつ思い出す。 わたし、選ばれたの  二人縁側で食べたスイカ。セミが合唱でもするように鳴き散らし、青い空と白い入道雲と黄色いヒマワリがコントラストとなって鮮明に脳裏に焼き付いている。嬉しそうに満面の笑顔を浮かべていた。普段感情豊かな姉だったが、あんなにうれしそうに笑った顔は初めて見たのを覚えている。 次に姉を見た時は、青白い顔をしてカチカチに体が固まっていた。 体には荷物のように縄が巻きつけられていてゆらゆらと水面に浮かんでいる、まるで釣りをするときの浮きのように。 わたし、選ばれたの。 嬉しそうな姉の顔が虚しく脳裏に残る。忘れることのできないあの笑顔。
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